内鼠径ヘルニアとは?外鼠径ヘルニアとの違いと、なりやすい人を専門医が解説
内鼠径ヘルニアは、鼠径ヘルニア(脱腸)のうち鼠径管の後ろの壁がゆるんで、そこからおなかの中のものが押し出されてくるタイプです。もう一方の外鼠径ヘルニアは、内鼠径輪というもともと開いている穴を通ります。出口が違うだけ、と言ってしまえばそれまで。
もっとも、なりやすい人も、進み方も、少しずつ違います。
両者を分けているのは下腹壁動静脈という血管で、その内側から出れば内鼠径ヘルニアです。外から触っただけで見分けるのは難しく、はっきりするのは手術で中を見たときになります。

この記事で分かること
- 内鼠径ヘルニアが出てくる場所
- 外鼠径ヘルニアとの違い。分けているのは血管のどちら側か
- 学会の分類でM型と書かれる意味と、数字の読み方
- なりやすいのはどんな人か。ガイドラインが挙げている2つの体格
- 女性に多い病気なのか
- 受診する前に、自分がどちらのタイプか分かるのか
- 治療の選び方と、様子を見てよい場合
目次
1. 内鼠径ヘルニアとは。鼠径管の後ろの壁から出るタイプ
おなかの壁のうち、鼠径管には前の壁と後ろの壁があります。このうち後ろ側は、加齢や腹圧のかかり方で年月をかけてゆるんでくることがあって、そこから押し出されるように腹膜や脂肪、腸が出てきます。足の付け根の構造そのものについては鼠径部がどこを指すのかで図を使って説明しています。
外鼠径ヘルニアのように決まった穴を通って出るのではなく、壁そのものが面としてゆるむ。同じ鼠径部のふくらみでも、成り立ちがそこから違っています。
外鼠径ヘルニアのほうは、男性では精索に沿って陰嚢まで下りていくことがあります。内鼠径ヘルニアはその通り道を使いません。かわりに、すぐ内側にある膀胱が引き込まれるように出てくることがあります。おしっこの出かたが変わったと感じる方がいらっしゃるのは、これが理由です。
2. 外鼠径ヘルニアとの違いは、血管のどちら側か
ここがいちばん質問の多いところです。
足の付け根には下腹壁動静脈という血管が縦に走っていて、日本ヘルニア学会の分類はこの血管を基準に線を引いています。血管より外側で内鼠径輪から出れば外鼠径ヘルニア、内側で鼠径管の後壁から出れば内鼠径ヘルニア。判断の材料はそれだけです。
| 内鼠径ヘルニア(M型) | 外鼠径ヘルニア(L型) | |
|---|---|---|
| 出口 | 鼠径管の後ろの壁 | 内鼠径輪 |
| 血管との関係 | 下腹壁動静脈の内側 | 下腹壁動静脈の外側 |
| 出かた | 壁が面としてゆるむ | もとからある穴を通る |
| 陰嚢まで下りるか | 下りない | 下りることがある |
| 膀胱 | 引き込まれることがある | まれ |
| 危険因子 | 肥満・高身長 | 仕事での機械的作業 |
| 子どもでは | 非常にまれ | ほとんどがこちら |

表の下2行は、ガイドラインを読んでいて意外に感じた方が多いかもしれません。同じ「鼠径ヘルニア」でくくられていても、なりやすさの背景がタイプごとに違う。体の使い方が関わるのは外鼠径ヘルニアのほうで、内鼠径ヘルニアには体格のほうが挙げられています。外側のタイプがどう始まってどう進むかは、外鼠径ヘルニアの初期症状と左右の出かたのほうで時間の流れに沿って書きました。
もっとも、この線引きは手術で中を見たときに確定するものです。学会の分類自体が「術中所見によって分類する」と定めています。診察の段階で外か内かを言い切れないのは、腕の問題ではなく、そういう決め方だからです。
ちなみに、同じ足の付け根でも鼠径靱帯より下に出る大腿ヘルニアは別の病気で、学会の分類ではF型と書き分けられます。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「自分は外なのか内なのか」を先に知りたいとおっしゃる方がいらっしゃいます。お気持ちはよく分かるのですが、そこが決まっても治療の入口は変わらないことのほうが多いです。どちらであっても自然には治りませんし、当院の手術では両方の場所を同じ視野で確かめます。むしろ、いつから出ているか、戻りにくくなっていないか。診察でうかがいたいのはそちらです。
3. 学会はどう分類しているか。「M型」の読み方
手術の記録や紹介状に「M2」とだけ書かれていて、面食らったという方がいらっしゃいます。
日本ヘルニア学会が2021年に決めた分類(新JHS分類)で、アルファベットが出てくる場所、数字がヘルニア門の大きさを表しています。内鼠径ヘルニアはM、外鼠径ヘルニアはL、大腿ヘルニアはF。Mはmedial。内側を指す語です。

大きさは、成人の指1本ぶんを1.5cmとして測ります。1.5cm以下がM1、1.5cmを超えて3cm未満がM2、3cm以上がM3。M2なら、穴は指1本ぶんより大きく2本ぶんには届かない、という意味になります。
L型とM型が両方ある方もいて、その場合は併存型として両方を書きます。分類そのものが手術中の所見で決めるものなので、この記号が決まるのは手術が終わったあとです。穴の大きさや広がり方は、あとから再発が起きるときに何が関わるかにもつながってきます。
4. 内鼠径ヘルニアになりやすい人
学会のガイドラインに、はっきり書かれている一文があります。
内鼠径ヘルニアの危険因子として、肥満と高身長が挙げられている。
鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024[第2版](日本ヘルニア学会)CQ1-1 より
背が高いことが挙がっているのは、少し意外に映るかもしれません。
同じCQには、鼠径ヘルニア全体としての体重の話も出てきます。そちらは太っている人のほうがなりにくいという報告が多いという、逆向きの書かれ方。全体で見ると肥満は起こりにくさの側にあり、内鼠径ヘルニアに限ると起こりやすさの側にある、という整理になります。ややこしいところですが、報告が割れていること自体が現状です。

全体に共通する因子としては、男性であること、年齢が高いこと、家族にヘルニアの方がいることが挙がっています。生活の側では肉体労働の量、飲酒歴、喫煙歴。持病では慢性的な咳、慢性閉塞性肺疾患、腹膜透析。そして前立腺を全部摘出する手術を受けたあとと、前立腺肥大症など尿の出にくさがあること。
前立腺の手術のあとに出てくる方は、実際に少なくありません。手術から何年か経ってからのことも多く、関係が無いと思われがちです。心当たりのある方は、診察のときに教えてください。
関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)の原因は?男性に多い理由を専門医が解説
5. 内鼠径ヘルニアは女性に多いのか
外来でもよくいただく問いなので、先に答えを書きます。
結論から書きます。女性に多い病気ではありません。学会のガイドラインが鼠径ヘルニア全体の危険因子として最初に挙げているのは男性であることで、内鼠径ヘルニアについても、そこから外れる記載はありません。
では、なぜ女性と結びつけて調べられるのか。
足の付け根のヘルニアには大腿ヘルニアという型もあって、そちらは高齢の女性に多いと言われてきました。足の付け根のふくらみを調べていくうちに、女性の話と内鼠径ヘルニアの話が混ざってしまうのだろうと思います。名前が似ていて、出る場所も数センチしか離れていません。

女性に鼠径ヘルニアが起こらないという意味ではありません。起こります。とはいえ、女性で足の付け根がふくらんだときは大腿ヘルニアやヌック管水腫のほうも一緒に考える必要があって、型を決めつけないで診ることのほうが大事になります。そのあたりは女性の鼠径部の膨らみで考える病気でまとめました。
6. 症状の出かた。膀胱が引き込まれることがある
立つと出て、横になると消える。
ここは外鼠径ヘルニアと変わりません。痛みから始まる方は少なく、たいていは見た目か違和感で気づかれます。膨らみそのものの見分け方は症状のセルフチェックに5項目でまとめてあります。
このタイプで特徴的なのは、そこにおしっこの話が混ざってくることです。ヘルニアのすぐ内側に膀胱があるためで、引き込まれると尿が出しにくくなったり、二度に分けて出るようになったりします。残尿感や頻尿から泌尿器科を先に受診して、そこで見つかる方もいらっしゃいます。
膀胱が近いことは、手術のときの段取りにも関わってきます。手術中に尿道カテーテルを入れるかどうかを症例ごとに考えているのは、この位置関係があるからです。
進んでくると、出ている時間が長くなり、押しても戻りにくくなってきます。夕方や立ち仕事のあとにつらいという方が多いです。そして硬くなって押しても戻らず、強い痛みや吐き気が出たときは、時間をおかずに受診していただく必要があります。飛び出したものがはまり込んだ状態で、押しても戻らなくなったときに何が起きているかに詳しく書きました。
7. 受診する前に、外か内か分かるのか
結論から言うと、難しいです。
分類そのものが手術中の所見で決めるものなので、外から触って当てにいく性質のものではありません。それでも検査で目星をつけられるかというと、ガイドラインの書き方は少し意外なものになっています。
検査について書かれていること
- 押せば戻るふくらみがはっきりあるなら、画像検査をひととおり行うことは推奨されていません。問診と診察で診断がつくためです
- ふくらみがはっきりしないとき、痛みや違和感だけのとき、夜だけ出るとき、戻らないときは画像が必要になることがあります
- そのときの第一選択は立ったまま、あるいはおなかに力を入れながら行う超音波検査
- CTは仰向けで撮ることが多く、その姿勢だとふくらみが引っ込んで写らないことがあります
同ガイドライン CQ3-1 より

検査を増やせば増やすほど分かる、という話ではないわけです。むしろ、出ているところを実際に見せていただくのがいちばん確かです。診察のときに引っ込んでしまう方は、出ている状態をスマートフォンで撮ってきてくださると助かります。
そもそもヘルニアではないこともあります。足の付け根のふくらみにはヘルニア以外の病気との見分けが要りますし、どこにかかればよいか迷ったときは何科を受診すればよいかを先に読んでいただくと早いかもしれません。

8. 治療。手術と、様子を見るという選択肢
ゆるんだ壁が自然に戻ることはありません。
ヘルニアバンドで押さえたり、おなかに力をかけない生活を心がけたりしても、出てくるのを抑えているだけで、治しているわけではありません。根治する方法は手術だけです。市販の器具や体操で自分で治せるのかという問いには、別のページで正面から答えました。
では、症状がほとんど無いときはどうするか。ここについては、ガイドラインがはっきりと両論併記をしています。
症状がほとんど無い場合
- 手術のほうが絶対によい、という証明はできていません。説明を尽くしたうえで、手術・経過観察のどちらも許容されるとされています
- ただし、経過観察を選んだ方のうち数年のうちに3割以上が結局手術を受けたという報告が、同じ項目のなかで紹介されています
- 経過観察のあいだに嵌頓を起こした方、腸を切る手術が必要になった方も、数としては少ないながら報告されています
同ガイドライン CQ5-1 より

待つという選択肢はある。ただ、待った先で結局手術になる方が一定数いる。この2つを並べてお伝えしたうえで、お仕事や生活の事情も含めて一緒に決めていくことにしています。
手術をすると決まったあと、方法は大きく2つに分かれます。足の付け根を切って直す方法と、おなかに小さな穴を開けて腹腔鏡で直す方法。どちらが優れているかについて、ガイドラインは一方に決めていません。初めての片側の男性については、腹腔鏡に習熟した外科医が行う場合に腹腔鏡を推奨するとしたうえで、全身麻酔が難しい方や以前の手術で強い癒着がある方には切開法を推奨しています。
項目ごとに見ると、傷の感染・手術後の痛み・長引く痛み・仕事に戻るまでの早さでは腹腔鏡に分があり、血管の損傷・精巣の痛み・途中で方法を変える割合・手術時間では切開法に分があります。どちらにも得意な面がある、というのが実際のところ。何を優先するかで変わってくるので、手術方法の選び方と腹腔鏡手術の流れも見比べてみてください。
9. 当院で受ける場合
当院は腹腔鏡(TAPP法)による日帰り手術を行っています。
この方法を選んでいるのは、おなかの内側から鼠径部をまとめて見渡せるからです。内鼠径ヘルニアなのか外鼠径ヘルニアなのか、反対側はどうなっているか、鼠径靱帯の下に大腿ヘルニアが隠れていないか。診察では決めきれなかったことを、その場で確かめながら進められます。入院しない手術を選んでいる理由は別のページにまとめました。
ヘルニア門の扱い方は、状態によって変わります。当院では症例によって、ヘルニア嚢を反転させて固定する方法をとることがあります。どの方法にするかは、手術中に実際の状態を見てから決めています。
健康保険が使えます。3割負担の目安と高額療養費の計算は費用の目安にまとめました。当日の流れと持ち物、それから術後の痛みと、いつから何ができるかも、それぞれ早見表を用意してあります。
ただし、重い持病をお持ちの方の日帰り手術について、一律に勧められるだけの根拠はまだ無いとガイドラインには書かれています。当院でも術前の検査結果と全身の状態を見たうえで、入院できる病院での手術をお勧めすることがあります。
よくある質問
立ったときや力を入れたときに足の付け根がふくらみ、横になると引っ込む。これがいちばん多い形です。痛みは無いことのほうが多く、重だるさや違和感で気づかれます。内鼠径ヘルニアでは膀胱が引き込まれることがあり、尿が出しにくい、二度に分けて出るといった変化が出る方もいらっしゃいます。
下腹壁動静脈という血管のどちら側から出ているかで分けます。血管より外側で内鼠径輪から出れば外鼠径ヘルニア、内側で鼠径管の後ろの壁から出れば内鼠径ヘルニアです。日本ヘルニア学会の分類では前者をL型、後者をM型と記載します。ただしこの分類は手術中の所見で決めるものなので、診察の段階では確定しません。
日本ヘルニア学会の鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024は、内鼠径ヘルニアの危険因子として肥満と高身長を挙げています。鼠径ヘルニア全体では、男性であること、年齢が高いこと、家族歴、慢性的な咳、前立腺を全部摘出する手術のあとや前立腺肥大症などが挙げられています。なお、仕事での機械的作業は外鼠径ヘルニアには関わるものの、内鼠径ヘルニアには関わらないという報告が紹介されています。
女性に多い病気ではありません。鼠径ヘルニアはもともと男性に多く、内鼠径ヘルニアもそこから外れる記載はガイドラインにありません。女性で足の付け根がふくらむときは、鼠径靱帯より下に出る大腿ヘルニアや、ヌック管水腫のほうも一緒に考える必要があります。型を決めつけずに診るほうが確かです。
違うことがほとんどです。ガイドラインには、小児ではそのほとんどが外鼠径ヘルニアで、ヘルニア門が1.5cm以下のL1に分類されると書かれています。内鼠径ヘルニアに当てはまる小児の症例は非常にまれとされています。
日本ヘルニア学会2021年版の分類(新JHS分類)の書き方です。Mはmedial、内側という意味で、内鼠径ヘルニアを指します。数字はヘルニア門の大きさで、成人の指1本ぶんを1.5cmとして、1.5cm以下がM1、1.5cmを超えて3cm未満がM2、3cm以上がM3です。手術中に実際の状態を見て決めるものなので、手術が終わってから確定します。
症状がほとんど無い場合は、手術と経過観察のどちらも許容されるというのがガイドラインの記載です。手術のほうが絶対によいと証明されてはいません。ただ、経過観察を選んだ方のうち数年のうちに3割以上が結局手術を受けたという報告も、同じ項目で紹介されています。押しても戻らなくなったときは、待たずに受診してください。
まとめ

おなかの壁のうち、鼠径管の後ろ側が面としてゆるんで出てくる。それが内鼠径ヘルニアです。外鼠径ヘルニアのように、決まった穴を通るのではありません。
両者を分けているのは下腹壁動静脈のどちら側から出ているかで、学会の分類ではM型・L型と書き分けます。確定するのは手術で中を見たとき。診察で言い切れないのは、そういう決め方だからです。
なりやすい人として挙げられているのは、肥満と高身長。仕事での機械的作業が関わるのは外鼠径ヘルニアのほうで、内鼠径ヘルニアには関わらないという報告があります。同じ病名でくくられていても、背景は同じではありません。
女性に多い病気ではありません。女性で足の付け根がふくらんだときは、大腿ヘルニアやヌック管水腫も含めて診ていきます。
治す方法は手術だけ。症状が軽ければ待つ選択肢もありますが、待った先で結局手術になる方も一定数いらっしゃいます。足の付け根のふくらみ全般は鼠径ヘルニア(脱腸)の症状から治療までにまとめてあります。土日も診療していますので、平日に来られない方もご相談ください。