足の付け根が痛い場面から考える鼠径ヘルニア(脱腸)とほかの原因
歩き出しに出る足の付け根の痛みと、ある日急に出る痛みとでは、考える病気も行き先も違います。痛むのがどのあたりなのか、言葉にしにくいときは、鼠径部(そけいぶ)の写真やイラストと見比べながら、指で押さえて確かめてみてください。
立ち上がりや歩き始めに痛んで夕方に重くなるなら膨らみの出る前の鼠径ヘルニア(脱腸)、脚を動かしたときだけ痛むなら筋肉や関節、押すと痛い粒が触れるならリンパ節の腫れ、というのが最初の見当。病名の側から順に見分けたいときは、鼠径部の痛みを病名から分ける見方のほうが早道になります。
この記事で分かること
- 鼠径ヘルニアを疑う4つのサイン
- 重い物や咳のあとに痛むとき
- 急に痛くなったときに、急ぐかどうか
- 押すと痛い粒や、立つと出る膨らみがあるとき
- 女性で片方だけ痛むとき
- 手術のあとの痛みと、迷ったときの受診先
目次
1. 歩き出しや立ち上がりで痛み、夕方に重くなるとき
膨らみが目に見えるより前の鼠径ヘルニアで、よく聞く痛み方です。外来で伺うと、次の4つのどれかに当てはまる方がたくさんいらっしゃいます。
- □ 歩くと足の付け根がつっぱる
- □ 立ち上がる瞬間に引っかかる感じがある
- □ 重い物を持った日の夕方に、鈍く重だるい
- □ 朝起きたときは何もないのに、夕方にかけて膨らむ
夕方につらくなるのは、なぜか。起きてから立ったり歩いたりしている時間が長くなるほど、お腹の内側から押す力がかかり続け、腸や脂肪が外へ押し出されやすくなるからです。横になれば楽になるのも、同じ仕組みの裏返しです。痛みそのものは、重だるい、引っ張られる、で済むことがほとんどです。強く痛まないぶん、様子を見たまま何週間もたってしまいがちですが、4つのうち1つでも数週間続いているなら、膨らみが無くても診察を受けてよい段階に入っています。
待つ理由は、あまりありません。

1-1. 膨らみが見えないうちは、立った姿勢の超音波で確かめる
寝た姿勢では、出ていた腸が中へ戻ってしまいます。そこで立ってもらい、お腹に力を入れた状態で超音波を当てる。膨らみのはっきりしない痛みに対して、日本ヘルニア学会のガイドラインが最初に選ぶ検査として挙げているのが、この方法です(CQ3-1)。結果は、診察と同じ日にお伝えしています。腸の出入りが映れば鼠径ヘルニア、映らなければほかの原因を探しにいく、という分かれ道。膨らみを伴わない痛みで候補に入る病気の一覧は、膨らみのない鼠径部の痛みにあります。


専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「痛むだけなのに来てよかったのか」と気にされる方が少なくありません。超音波は当日のうちに結果が出ますし、診断だけの受診でかまいません。違っていたら、その結果と、次に相談するとよい科をお話しします。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ3-1
2. 重い物を持ったり、咳をしたりしたあとに痛むとき
床から荷物を持ち上げたとき。咳が何日も続いたあと。痛み始めのきっかけとして、外来でよく挙がるのがこの2つです。お腹に力の入る動作のあとに出て、横になると和らぐ痛みなら、筋肉を傷めたと決めつける前に、一度は鼠径ヘルニアを疑ってみてください。
患者さんの多くは男性で、ガイドラインの危険因子の一覧でも、最初に書かれているのは男性であることです(CQ1-1)。続いて、年齢が高いこと、家族に同じ病気の人がいること、長引く咳、前立腺の手術を受けたこと、肉体労働の量が並んでいます。意外に思われるかもしれませんが、体の細い人のほうが起こりやすいとする報告が、太った人より多い、という記載もあります。なぜ男性に多いのか。答えは、男性に脱腸が起きやすい理由のページにあります。

2-1. 痛みが陰嚢のほうまで響くとき
陰嚢のほうへ痛みが広がる方もいます。外側から出てくる型のヘルニアは、精巣へ続く通り道をたどって下りてくるので、陰嚢の側が痛むように感じられるのです。
陰嚢の中に水がたまる陰嚢水腫や精索水腫も、よく取り違えられる病気です。水がたまる病気のほうは、膨らむのが陰嚢の中だけで、手で押しても中へ戻っていきません。腸が下りてくるヘルニアは、付け根のほうから膨らみがつながっていて、押せば戻ります。区別がつかなければ、超音波を当てて中身を見ます。
精巣そのものが急に激しく痛む。熱をもって腫れてくる。こうなったら泌尿器科へ急いでください。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ1-1
3. 急に痛くなったときは、膨らみが戻るかどうかを見る
最初に確かめるのは、膨らみを手で押して中へ戻るかどうか。戻らずに硬くなっているなら、急ぎます。
夜間や休日でも受診してほしい痛み
- 押しても戻らない膨らみがあり、痛みが強くなっていく
- 激しい腹痛や、吐き気・嘔吐がある
- 膨らみの部分が赤く腫れて、熱をもっている
- 太ももの内側が痛み、吐き気や便が出ない症状が重なる
1つ目と2つ目が重なっていれば、まず嵌頓(かんとん)を疑います。腸閉塞や腸の壊死につながりうるため、ガイドラインでも緊急手術の対象です(CQ19-1)。4つ目にあたるのが閉鎖孔ヘルニアで、腸の出口が骨盤の深いところにあるため、皮膚の上から膨らみを見つけるのが難しい型です。痩せた高齢の女性に多くみられます。

3-1. 膨らみが無く、脚を動かしたときだけ痛むなら
脚を上げる、蹴る、歩き出す。そういう動作のたびに痛み、休ませると軽くなるのなら、ヘルニアより先に疑うのは、筋肉や腱、それに股関節の側です。整形外科で診る病気のうち、ガイドラインが見分ける相手として名前を挙げているのは、次の4つです。内転筋腱炎、恥骨炎、股関節症、腸骨滑液包炎(CQ3-1)。
休んでも引かない、動作と関係なく鈍く痛む、夕方になると小さく膨らむ。こちら寄りなら、膨らみの出ていないヘルニアを疑って、超音波で確かめる側へ切り替えます。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ19-1・CQ3-1
4. 痛むところに、粒や膨らみが触れるとき
4-1. 押すと痛い、豆のような粒
指で押して痛む小さな粒なら、まず思い浮かぶのはリンパ節の腫れです。
行き先は内科か皮膚科。
待ってよい期間と、待つのをやめる合図は、足の付け根のしこりで様子を見てよい期間に書きました。
4-2. 立つと出て、横になると引っ込む膨らみ

やわらかくて、指で押すとすっと奥へ引っ込む。そういう膨らみは、鼠径ヘルニアの形です。見た目や触った感じを写真で確かめたいときは、脱腸の初期症状のセルフチェックをどうぞ。
5. 女性で、片方だけが痛むとき
片方だけが痛むこと自体は、珍しくありません。ヘルニアは片側に出ることが多く、右か左かで病名が変わるわけでもないので、見るべきなのは膨らみがあるかどうかと、月経や妊娠との関係の2つです。
- 大腿ヘルニア:太ももの付け根寄りの小さな膨らみ。嵌頓しやすい → 外科
- Nuck管水腫:20〜40代。やわらかく、体の向きを変えても大きさがあまり変わらない → 外科
- 子宮円靭帯静脈瘤:妊娠中。血流を映す超音波で見分ける → 婦人科・外科
- 子宮内膜症:月経の周期に合わせて痛みが変わる → 婦人科
4つのうち、外科で診ることが多いのは大腿ヘルニア。女性では患者さんの数が少ないこともあって、見過ごされやすいと外来で感じています。症状の出にくさや受診のしかたは、女性に多い鼠径部の痛みの原因のページへ。

参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ3-1
6. 手術のあとに残る痛み
術後に続く痛みは、手術前の痛みとは分けて考えます。どれくらいの人に痛みが残るかは報告ごとに開きが大きく、評価のしかたが統一されていないためだと、ガイドラインは説明しています(CQ17-1)。どんな人に残りやすいか、どのくらいで引いていくかは、手術後の痛みが落ち着くまでの経過を見てください。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ17-1
7. 足の付け根の痛みで迷ったときの受診先
迷ったら、まずは外科か消化器外科へ。

脱腸であれば当日に診断がつきますし、違う病気だった場合も、その病気を診る科へ紹介できます。外科と消化器外科を入口にする理由の詳しい話は、別のページで。診察するのは日本外科学会の外科専門医で、当院は脱腸の日帰り腹腔鏡手術を専門にしています。どれくらい手術をしているか。件数の推移は、最新の手術実績で。痛む姿勢や時間帯を書き留め、初診の日に持っていくものをそろえて来ていただくと、話がぐっと早くなるはずです。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、痛み止めが効いているあいだは様子を見ていた、という声をよく聞きます。薬が効くのは痛みのほうで、お腹の壁の穴は開いたまま残ります。大人の鼠径ヘルニアは自然には治らない、というのがガイドラインの前提です(CQ5-1)。決め手にするのは、痛みの強さではなく膨らみです。
8. まとめ
- 歩き出し・立ち上がり・夕方の重さは、膨らみが出る前の鼠径ヘルニアのサイン
- 膨らみが見えなければ、立った姿勢の超音波で確かめる
- 戻らない膨らみに強い痛みや吐き気が重なれば、夜間や休日でも受診
- 動かしたときだけ痛み、休むと軽くなるなら、筋肉や関節の側
- 女性の片方だけの痛みは、膨らみの有無と月経・妊娠との関係で分かれる
痛みの強さと病気の重さは、この場所にかぎって比例してくれません。
脱腸がどんな病気かを初めから知りたい方や、脱腸の日帰り手術の内容を先に確かめたい方は、それぞれのページへどうぞ。
よくある質問
片側だけに出るのはよくあることで、それだけで心配を強める必要はありません。夕方に重くなる、立つと膨らむ、押すと痛い粒がある、のどれかが続くなら、一度診察を受けてください。
重い物や咳のあとに出て、横になると和らぐ痛みなら、まず鼠径ヘルニアを考えます。陰嚢だけが膨らむ、精巣が痛む、というときは泌尿器科の病気も考えなくてはなりません。
押しても引っ込まなくなった膨らみに、増していく痛みと吐き気が加わっていれば、時間外でも救急外来へ。膨らみが見当たらず、動いたときにだけ痛むなら、まずは休ませて経過を見てください。引かないときは整形外科へ。
月経の周期に合わせて痛みが変わるなら婦人科、太ももの付け根寄りに小さな膨らみがある、立ったときに膨らむ、というなら外科が窓口です。決めかねるときは外科で超音波を当て、必要なら婦人科へおつなぎします。
筋肉や関節の痛みなら、整形外科で相談するのが近道です。鼠径ヘルニアが原因なら、痛みが和らいでもお腹の壁の穴はふさがりません。
受診してかまいません。立ってお腹に力を入れた状態で超音波を当てると、見た目にはまだ出ていない段階でも、腸がお腹の壁の外へ出入りしているかどうかを確かめられます。