足の付け根の痛みは鼠径ヘルニア?男性・女性・片方だけの見分け方を専門医が解説
足の付け根が痛いのに、触ってみてもはっきりした膨らみは無い。整形外科では骨に異常なしと言われて、それでも痛みだけが残っている。
鼠径ヘルニア(脱腸)のいちばん早い時期は、この出方をすることがあります。膨らみが無いから脱腸ではない、とはまだ言い切れません。医学的には鼠径部と呼ばれる、太ももとお腹の境目の溝の周りの話です。
男性か女性か、片方だけか、急に痛くなったのか。場面ごとに、ヘルニアを疑うサインと、違うときにどこへ行くかを整理しました。
この記事で分かること
- 足の付け根の痛みで、鼠径ヘルニアを疑う4つのサイン
- 膨らみが無いのに痛いとき、診察で何をするか
- 男性に多い背景と、紛らわしい陰嚢側の病気
- 女性の片方だけの痛みで候補に挙がる4つの病気
- 急に痛くなったとき、右か左か、その日のうちに受診するサイン
- ヘルニア以外の病気の名前と、行き先の科
目次
1. 足の付け根の痛みで、鼠径ヘルニアを疑うサイン
痛みより先に、膨らみを見ます。
この病気の痛みは、そう強くないことのほうが多いからです。診察で軸になるのは、出たり引っ込んだりするふくらみのほう。
1-1. 立つと出て、横になると引っ込む膨らみ
お腹の壁の弱いところから腸や脂肪が皮膚の下に出てくると、立っているときに足の付け根がやわらかく膨らみ、横になると引っ込みます。指で押すと戻る。日本ヘルニア学会のガイドラインは、押せば戻る膨らみがあれば病歴と診察で診断がつくとして、画像検査を決まりごとのように行うことは勧めていません(CQ3-1)。

このとき感じる痛みは、重だるい、引っ張られる、といった程度のことが多いものです。強い痛みより先に、膨らみで気づく病気。膨らみの見た目と触った感じは、鼠径ヘルニアの初期症状の見た目とセルフチェックに写真つきでまとめてあります。
1-2. 膨らみが出る前の、痛みと違和感
膨らみとして触れる前に、感覚だけが先に変わる時期があります。歩くと足の付け根がつっぱる。立ち上がる瞬間に引っかかる。重い物を持った日の夕方に、鈍く重だるい。昼間は何も無いのに、夜になると小さく膨らむ。
見た目に出る前のサイン
- □ 歩くと足の付け根がつっぱる
- □ 立ち上がるときに引っかかる感じがある
- □ 重い物を持った日の夕方に、鈍く重だるい
- □ 昼間は何も無いのに、夕方や夜になると膨らむ
痛む場所にも傾向があり、恥骨の斜め上の外側、1センチほどずれたあたりです。腹膜の袋が通り道を押し広げていく途中で、筋膜がわずかに裂けるためで、この時期はまだ膨らみとして感じられません。

4つのうち1つでも当てはまり、それが数週間続いているなら、膨らみが無くても一度は診察を受けてよい段階です。とはいえ、気のせいで済むならそれに越したことはありません。超音波で確かめれば、その場で分かります。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ3-1
2. 膨らみが無いのに痛いとき、診察で何をするか
見た目に出ないまま来られる方も、珍しくありません。
ガイドラインは、診断がはっきりつかないケースとして3つを挙げています。肥満などで膨らみが分かりにくい場合、膨らみを伴わずに痛みや違和感だけがある場合、診察のときには出ないのに夜間になると膨らむ場合。
こうしたときの第一選択は、立った姿勢でお腹に力を入れながら行う超音波検査です(CQ3-1)。寝た姿勢では腸が引っ込んでしまうので、立ってもらい、息をこらえてもらって、腸の出入りをその場で映します。
当院でも、膨らみが無い痛みの方には、この立位の超音波を最初に行います。診察と合わせて、その日のうちに結果をお伝えできるので、何度も足を運んでいただく必要はありません。痛みだけで来られて、超音波で腸が出てきているのが分かる方は実際にいらっしゃいます。

痛みだけで来られたときの診察の流れ
- 問診。いつ、どんな動作で痛むか。夕方や夜に膨らむか
- 立った姿勢で足の付け根を見て、触る
- 立ったまま、お腹に力を入れながら超音波
- 腸の出入りが映れば鼠径ヘルニア。映らなければ別の原因を考える

押すと痛いか、脚を動かすと痛いか、膨らみがあるか。その3つで病気を振り分ける見方は、鼠径部の痛みを3つの質問で分ける見分け方に書きました。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「痛みだけなので、来るのは大げさかと思って」と話される方が少なくありません。膨らみが無い段階の超音波はその場で結果が出ますし、診断だけの受診で構いません。ヘルニアでなければ、そのことをお伝えして、合う科をご案内します。
3. 男性の足の付け根の痛み
まず、男性に多い病気です。
ガイドラインが危険因子の筆頭に挙げているのも、男性であること(CQ1-1)。年齢が高いこと、家族に同じ病気の人がいること、長く続く咳、前立腺の手術を受けたこと、肉体労働の量も並びます。太っている人より痩せている人のほうが起きやすいという報告が多い、という少し意外な記載もありました。
3-1. 男性で多い、気づく場面
重い物を持ち上げた瞬間に、足の付け根がずきっとした。咳き込んだあとに違和感が残る。立ちっぱなしだった日の夕方に重だるい。外来で伺う「最初に気づいたとき」は、だいたいこの3つのどれかです。
腹圧がかかる動作のあとに出て、横になると楽になる。この繰り返しが何週間か続いているなら、筋肉の痛みより先に、膨らみの出ていないヘルニアを考えます。
3-2. 紛らわしいのは、陰嚢側の病気
男性の場合は、陰嚢や精巣の側の病気と見分けておく必要があります。陰嚢水腫や精索水腫は、陰嚢の中だけが膨らんで、押しても引っ込みません。ヘルニアは足の付け根から続いていて、押せば戻る。迷うときは超音波を当てて、中身が液体なのか腸なのかをその場で確かめます。
ヘルニアそのものでも、片側の陰嚢のほうが痛いと感じる方がいらっしゃいます。外側から出る型が、通り道をたどって陰嚢のほうまで下りてくるためです。一方、精巣が急に強く痛む、腫れて熱をもつ。こういうときは足の付け根の話ではなく、泌尿器科で急いで診てもらう病気を考えます。

参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ1-1
4. 女性の、片方だけの痛み
女性では、候補の並びが変わります。
数が少ないぶん見逃されやすい、というのが外来での実感です。
4-1. 候補に挙がる4つの病気
候補の筆頭は大腿ヘルニアです。太ももの付け根寄り、鼠径靭帯の下から出る型で、穴が小さく硬いぶん嵌頓しやすく、これまでのガイドラインでは症状が無くても手術が勧められてきました(CQ6-1)。高齢で痩せ型、出産回数の多い女性に多いと教科書的には言われてきましたが、それを裏づける明確なエビデンスは無いともされています(CQ2-1)。

次にNuck管水腫。20代から40代の女性で、胎児のときに残った腹膜の袋に水がたまったもので、やわらかく弾力があり、出る場所がヘルニアとほぼ同じです。体位を変えても大きさがあまり変わらない点が違い、痛みを伴うこともあります。
妊娠中の足の付け根のしこりや痛みでは、子宮円靭帯静脈瘤が候補に入り、血流を映す超音波で見分けがつきます。月経の周期に合わせて痛みが強くなるなら子宮内膜症も挙がり、こちらは婦人科の領域です(CQ3-1)。
女性の片方だけの痛みで考える4つ
- 大腿ヘルニア:太ももの付け根寄りの小さな膨らみ。嵌頓しやすい
- Nuck管水腫:20〜40代。やわらかく、体位で大きさが変わらない
- 子宮円靭帯静脈瘤:妊娠中。血流を映す超音波で分かる
- 子宮内膜症:月経の周期で痛みが変わる。婦人科へ
4-2. 片方だけ、はむしろ普通
右だけ、左だけが痛む。どちらも珍しくありません。
ヘルニアは片側に出ることが多く、両側に出る方もいますが、右だから左だからという理由で病気が変わることはない。片方だけという事実より、膨らみが出るかどうかのほうが手がかりになります。

女性の鼠径ヘルニアの特徴は別のページにまとめてあります。「片方だけ」「チクチク」「ズキズキ」といった言葉だけで病気を決めることはできませんので、膨らみの有無と一緒に診ます。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、妊娠中や産後から片方の足の付け根が痛い、という方がいらっしゃいます。婦人科で問題なしと言われたあとに、外科で診ると小さな膨らみが見つかることがあります。婦人科と外科は候補が違うので、両方で診てもらって損はありません。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ2-1・CQ3-1・CQ6-1
5. 急に痛くなった。そのとき確かめること
押して、戻るかどうか。
急に痛くなったとき、外来で最初に確かめるのもそこになります。硬くなって戻らないなら、話が変わります。
5-1. 押しても戻らない膨らみと強い痛みは、その日のうちに
いつもなら押せば引っ込む膨らみが、今日は戻らない。硬くなっていて、触ると痛い。吐き気がある。この組み合わせは嵌頓(かんとん)で、出てきた腸が締めつけられて血が通わなくなる状態です。夜間や休日でも、救急外来を受診してください。ガイドラインも、嵌頓・絞扼したヘルニアは腸閉塞や腸管壊死を伴うことがあるとして、緊急手術の対象に置いています(CQ19-1)。
その日のうちに受診するサイン:押しても戻らない膨らみと強くなる痛み/激しい腹痛や嘔吐/膨らみの部分が赤く腫れて熱をもつ/太ももの内側の痛みに、吐き気や便が出ない症状が重なる
最後の項目は、閉鎖孔ヘルニアです。骨盤の骨に囲まれた穴から腸が抜け出す型で、外から膨らみがほとんど見えず、太ももの内側の痛みやしびれだけが出ます。痩せた高齢の女性に多く、腸の通りが悪くなってから見つかる経過を、実際の診療で経験しています。
5-2. 膨らみが無い急な痛みは、動かして確かめる
急に痛くなったけれど膨らみは無い。脚を上げる、蹴る、歩くといった動作で痛み、休ませると軽くなる。この出方なら、ヘルニアより先に筋肉や腱、股関節の側を考えることになります。ガイドラインが鑑別として挙げているのも、内転筋腱炎や恥骨炎、股関節症といった整形外科の病気です(CQ3-1)。
休んでも戻らない、動作と関係なく鈍く痛む、夕方に小さく膨らむ。そちらに寄っていくなら、膨らみの出ていないヘルニアを疑って超音波、という順番になります。

参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ19-1
6. ヘルニア以外で考えられる病気と、行き先
足の付け根の痛みの原因は、ヘルニアだけではありません。ガイドラインが鑑別に挙げている病気の名前と、それぞれどの科で診るかを表にしました(CQ3-1)。病気ごとの説明は当院の診療範囲を超えるので、名前と行き先までにとどめます。
| 痛みの出方 | 考える病気と行き先 |
|---|---|
| 動かすと痛む・休むと軽い | 内転筋腱炎、恥骨炎、股関節症、腸骨滑液包炎 → 整形外科 |
| 押すと痛い豆のようなしこり | リンパ節の腫れ → 内科・皮膚科 |
| 月経の周期で痛みが変わる | 子宮内膜症 → 婦人科 |
| 妊娠中の片側の痛み・しこり | 子宮円靭帯静脈瘤 → 婦人科・外科 |
| 陰嚢だけが膨らむ・精巣が痛む | 陰嚢水腫、精索水腫、精巣の病気 → 泌尿器科 |
| 立つと出て寝ると引っ込む膨らみ | 鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、Nuck管水腫 → 外科・消化器外科 |
リンパ節は足の付け根にまとまって並んでいて、足の傷や水虫、性感染症が引き金になって腫れ、押すと痛い豆のようなしこりとして触れます。原因が治まれば小さくなるのがふつうです。

押すと痛いか、動かすと痛いかで整形外科や皮膚科と分ける手順は、膨らみが無いのに鼠径部が痛いときに考えられる病気に詳しく書きました。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「痛み止めで楽になったので、そのままにしていた」という方がいらっしゃいます。痛み止めで痛みが引いても、お腹の壁にあいた穴が閉じるわけではありません。成人のヘルニアは自然には治らない、というのがガイドラインの前提です(CQ5-1)。痛みの有無より、膨らみが出るかどうかで判断してください。
7. 手術のあとの痛みは、別の話
ここまでは、手術の前の話でした。
手術のあとに残る痛みは、別に扱います。報告される発生率は0.7〜75%と幅が広く、痛みの評価法が一定していないためだとガイドラインは説明しています(CQ17-1)。
危険因子として挙げられているのは、女性、50歳以下の若い方、再発したヘルニア、術後早い時期の痛み、そして手術の前から痛みがあること。もっとも、痛みがあるから手術を急ぐという話ではありません。痛みが強い状態で受診された方には、そのぶん術後の痛みについて丁寧にお話ししています。
手術のあとの痛みの経過と、鎮痛剤の使い方、仕事に戻る時期は鼠径ヘルニアの手術後の痛みと回復期間に分けて書きました。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ17-1
8. 何科へ行くか
決められないときは、外科または消化器外科を入口にしてください。ヘルニアならその場で診断がつき、筋肉や関節、泌尿器科や婦人科の病気なら、合う科へつなげます。
当院は、鼠径ヘルニア(脱腸)の日帰り腹腔鏡手術に絞って診療しているクリニックで、日本外科学会の外科専門医が診察します。膨らみが無い痛みでも、立った姿勢の超音波で腸の出入りを確かめます。手術件数は最新の手術実績で月ごとに公表しています。
診断だけの受診でも構いません。初めて受診されるときの流れや持ち物は別のページにまとめています。痛みが出ている姿勢や時間帯をメモしてお持ちいただくと、診察が早く進みます。
よくある質問
あります。膨らみが出る前に、恥骨の斜め上外側あたりの痛みや、歩くとつっぱる感じだけが出る時期があります。膨らみがはっきりしない場合、日本ヘルニア学会のガイドラインは立った姿勢でお腹に力を入れながら行う超音波検査を第一選択に挙げています。その場で腸の出入りが分かります。
片方だけに出ることは珍しくありません。鼠径ヘルニアは片側に出ることが多く、リンパ節の腫れも原因のある側だけに出ます。右か左かで病気が変わることはなく、膨らみが出るかどうか、押すと痛いか、動かすと痛いかのほうが手がかりになります。
鼠径ヘルニアは男性に多い病気で、年齢が高いこと、家族歴、長く続く咳、前立腺の手術歴、肉体労働の量が危険因子として挙げられています。重い物を持った瞬間や咳のあと、立ち仕事の夕方に痛みや違和感が出て、横になると楽になる。この繰り返しが続くなら、膨らみが無くても一度診察を受けてください。陰嚢だけが膨らむ、精巣が急に強く痛む場合は泌尿器科です。
膨らみがあるか、月経や妊娠と関係があるかで分かれます。太ももの付け根寄りの小さな膨らみなら大腿ヘルニアの可能性があり、外科・消化器外科で診ます。月経の周期で痛みが変わるなら婦人科です。迷うときは外科を入口にしていただければ、超音波で確かめてから必要な科へおつなぎします。
膨らみが硬くなって押しても戻らない、痛みが強くなっている、吐き気がある。この組み合わせは嵌頓の可能性があり、夜間や休日でも救急外来を受診してください。膨らみが無く、脚を動かすと痛んで休むと軽くなるなら、筋肉や腱、股関節の側をまず考えます。
原因が鼠径ヘルニアであれば、痛みが引いてもお腹の壁の穴は閉じません。成人の鼠径ヘルニアは自然には治らず、根治には手術が必要とガイドラインに明記されています。筋肉や関節の痛みであれば整形外科で相談してください。どちらか分からないときは、超音波で確かめるのが早い方法です。
膨らみがあるなら外科・消化器外科、脚を動かすと痛むだけなら整形外科、精巣が痛むなら泌尿器科、月経に関係するなら婦人科が目安です。決められないときは外科・消化器外科を入口にしてください。ヘルニアかどうかをその場で確かめ、違えば必要な科へつなげます。
まとめ
膨らみが無いから脱腸ではない、とは言えない。足の付け根の痛みで、まず持ち帰っていただきたいのはこの一点です。
- 疑うサイン:歩くとつっぱる、立ち上がると引っかかる、夕方に重だるい、夜だけ膨らむ
- 診察:膨らみが無ければ、立った姿勢の超音波が第一選択(日本ヘルニア学会)
- 男性:重い物・咳・立ち仕事のあとに出る痛み。陰嚢だけの膨らみは泌尿器科
- 女性:大腿ヘルニア、Nuck管水腫、妊娠中の静脈瘤、子宮内膜症。片方だけは普通
- 急ぐとき:戻らない膨らみ、強い痛み、吐き気。その日のうちに受診

痛みの強さと病気の重さは、この場所にかぎっては比例してくれません。痛みのないヘルニアもあれば、痛いだけで大ごとにならない筋肉痛もあります。膨らみが出るかどうかを軸に、迷ったら超音波で確かめる。それだけで、遠回りはかなり減ります。
全体像のほうは脱腸の症状から治療までの流れにまとめてあります。当院は大阪駅前第2ビル1階にあり、梅田駅から徒歩5分です。月・水〜土は21時まで、火曜と日・祝は17時まで診療しています(17時以降と火曜・日祝は要予約)。電話・Web予約・LINEでのご予約・ご相談は、24時間365日受け付けています。