鼠径ヘルニア(脱腸)手術後の膨らみは漿液腫?再発との見分け方と、合併症・後遺症を専門医が解説
鼠径ヘルニア(脱腸)の手術から2週間ほどたったころ、手術した場所がまた膨らんできた。再発したのではないかと心配になって、連絡をくださる方は多いです。
その膨らみの多くは、漿液腫(しょうえきしゅ)です。手術した場所にリンパ液がたまったもので、たいていは日がたつうちに引いていきます。再発かどうかは、超音波を当てれば見分けがつきます。
ただ、傷が赤く腫れて膿が出る、38℃以上の熱が続く、強い痛みが引かない、といったときは話が別です。様子を見ずに連絡してください。
この記事で分かること
- 手術のあとに出てくる膨らみの正体(漿液腫)
- 漿液腫と再発の見分け方
- 血腫と、傷やメッシュの感染
- 数か月続くつっぱり感と、慢性疼痛
- 腹腔鏡手術と切開法で違う合併症
- 待たずに連絡してほしい症状
目次
1. 手術のあとに出てくる膨らみの多くは、漿液腫
1-1. ヘルニアが出ていた場所に、水がたまる
鼠径ヘルニアの手術では、お腹の壁の弱くなった場所をメッシュで覆って補強しますが、メッシュの外側には、それまで腸や脂肪が飛び出していた空間がそのまま残ります。
この空間は、ふつうは日がたつうちに閉じていきます。閉じきらずに残ると、中にリンパ液がたまって、手術した場所が膨らんで触れるようになる。これが漿液腫で、手術から2週間ごろまでのあいだに出てきます。
起こる頻度は、腹腔鏡の手術を受けた人の4.4%。日本内視鏡外科学会が、全国の腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術を集計した数字です。

1-2. 多くは自然に引く。残るときは針で抜く
たまったリンパ液の多くは、そのまま体に吸収されて、膨らみも引いていきます。なかなか引かないときは、皮膚の上から針を刺して中の液を抜き、空間をつぶして閉じさせます。一度で閉じきらず、何回か抜くこともあります。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「一度抜いてもらったのに、またたまってきた」と気落ちされる方がいらっしゃいます。抜いた直後は平らになっても、空間が閉じきるまでは、また液がたまってくることがあります。たまってきたと感じたら、遠慮なく、そのつど見せてください。
2. 漿液腫か、再発か
見分ける手がかりは、膨らみの変わり方です。
再発したヘルニアでは、お腹の壁にできた穴を通って、腸や脂肪が出たり入ったりしています。立ち上がる、咳をする、お腹に力を入れるといったときに大きくなり、横になったり手でそっと押したりすると、お腹の中へ戻っていきます。

漿液腫のほうは、押しても、横になっても消えません。
とはいえ、再発の膨らみは最初のときより小さく分かりにくいことも多く、傷あとの硬さや漿液腫と見分けるのは、ご自分では難しいはずです。超音波を当てると、たまっているのが液体なのか、壁の穴から出てきた腸や脂肪なのかが、その場で分かります。

再発の前兆には、目に見える膨らみのほか、足の付け根の鈍い痛みや、夕方になると強くなるつっぱり感もあります。「また出てきたかもしれない」と思ったら、自分で押し込んで確かめようとせず、そのまま外来で見せてください。
3. 血がたまる血腫と、傷の感染
3-1. 血腫は、手術から1〜2日のうちに
血腫は、手術で切った小さな血管から血がにじみ出て、手術した場所にたまり、塊になったものです。起こるとすれば、手術から24〜48時間のうちがほとんど。鼠径ヘルニアの手術では大きな血管を切らないので、大量に出血することは極めてまれです。たまった血液は、多くがそのまま吸収されて消えていきます。必要なときは、血腫を取り除く処置をします。
3-2. 傷の感染と、メッシュの感染
傷のまわりが赤く腫れる、膿が出てくる、38℃以上の熱が続く。どれも、傷に菌が入ったときのサインです。皮膚を切った場所は、皮膚がもともと持っている菌を防ぐ働きが弱まっていて、腸を切らない清潔な手術でも、皮膚にいる菌による感染をゼロにはできません。
予防の抗菌薬を手術のときに使うと、手術部位の感染が減ることが分かっていて(CQ14-1)、当院でも投与しています。
心配なのは、菌がメッシュにまで付いてしまうことです。人工物に付いた菌は抗菌薬だけでは退治しきれないことが多く、メッシュを取り出す手術が必要になる場合があります。メッシュの感染はまれですが、傷の赤みや膿に気づいたら、早めに連絡をください。
4. 違和感や痛みが長く続くとき
痛みの山は当日の夜から翌日にかけてで、1週間ほどたつと、動いたときの違和感は残っても、手術後の痛みはだいぶ軽くなります。傷あとのまわりのつっぱり感は、それより長く残ることがあります。

4-1. 傷あとのつっぱり感は、軽くなっていくかで見る
痛みが引いてからも、傷あとのまわりがつっぱる、何かが挟まっているような感じがする、という方はいます。手術から半年くらいまでのこうした感覚は、傷あとが硬くなったり、神経が回復していったりする途中で出てくる一時的なものも多く、それだけで再発と決まるわけではありません。軽い腫れや違和感も、傷が治っていく途中の反応です。
大事なのは、どちらへ向かっているかです。時間とともに強くなっていくのか、変わらないか、軽くなっているのか。強くなっていくなら、一度診察を受けてください。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、傷あとのつっぱりを再発ではないかと心配される方がいらっしゃいます。そういうときは、2週間前や1か月前と比べてどうだったかを思い出していただきます。少しずつでも軽くなっているなら、治っていく途中のことも多いものです。それでも気になるようなら、超音波で確かめましょう。
4-2. 3か月を過ぎても続く痛み(慢性疼痛)
慢性疼痛と呼ぶのは、手術から3か月を過ぎても続く痛みです(CQ17-1)。どのくらいの人に起こるかは報告によって大きく違い、痛みの測り方がそろっていないので、ひとつの数字では言えません。
長引きやすいとされるのは、女性、50歳以下の方、再発したヘルニアの手術を受けた方、手術の前から痛みがあった方、手術のすぐあとの痛みが強かった方です(CQ17-1)。このうち手術のすぐあとの痛みだけは、処方された痛み止めを我慢せずに使うことで、抑えておけます。
慢性疼痛も、痛み止めで抑えられることが多くあります。痛みのもとになっている神経を切る手術もありますが、効果は期待できるものの、勧められる段階にはまだありません(CQ17-3)。3か月を過ぎても痛むときは、我慢を続けずにご相談ください。
5. 手術の方法で、起こりやすい合併症は変わる
お腹の内側からメッシュを当てる腹腔鏡手術と、足の付け根を切って前からメッシュを当てる切開法。鼠径ヘルニアの手術はこの2つに分かれ、比べてみると、起こりやすい合併症の顔ぶれが違ってきます(CQ7-1)。
腹腔鏡手術で少ないのは、手術部位の感染、手術のすぐあとの痛み、慢性疼痛。一方で、精巣の痛み、血管の損傷、手術の途中で切開法に切り替えることは、腹腔鏡手術のほうが多くなります。再発、臓器の損傷、尿が出せなくなる尿閉には、差がありませんでした。

すべての項目で片方が上回る、という結果ではありません。両方とも条件つきで推奨されていて(CQ7-1)、全身麻酔ができない方や、以前のお腹の手術で強い癒着がある方には、切開法が向いています。
尿閉に差はないとはいえ、全身麻酔と痛み止めの影響で、一時的に尿が出しにくくなることはあります。手術のあとの尿の出にくさを見込んで、当院ではご自分で排尿できたのを確かめてから、帰宅していただいています。
当院の手術は、原則として腹腔鏡で行っています。長く残る痛みを起こさないよう、神経の位置を意識して操作し、メッシュの広げ方にも気を配っています。手術の内容を見直すため、症例の検討も定期的に続けています。
6. 待たずに連絡してほしい症状
手術のあとに出てくる変化の多くは日がたつうちに落ち着いていきますが、待たずに連絡してほしいのは、それとは違う動きをするものです。

赤みや膿、続く熱は、傷の感染を疑うサイン。強い痛みが引かないときや、手術した場所にはっきりした膨らみが出てきたときも含めて、当院へ連絡をください。
膨らみが硬くなって押しても戻らない、痛みがだんだん強くなる、吐き気がある。これは、出てきた腸が締めつけられる嵌頓(かんとん)のサインで、再発したヘルニアでも起こります。夜間や休日でも、ためらわずに救急外来を受診してください。
激しい腹痛や嘔吐があり、お腹が張ったまま便もガスも出ないときも、同じように救急外来へ急いでください。腸の中身の流れが止まっているサインです。当院のTAPP法では、いったん切り開いた腹膜を縫って閉じ直すので、その縫い目に腸がくっついて腸閉塞を起こすことが、まれにあります。
他院で手術を受けた方の、再発のご相談も受け付けています。診察と超音波で、いま何が起きているのかを確かめます。
診療時間 月・水〜土は21時まで、火曜と日・祝は17時まで診療しています(17時以降と火曜・日祝は要予約)。電話・Web予約・LINEでのご予約・ご相談は、24時間365日受け付けています。
よくある質問
多くは漿液腫です。ヘルニアが出ていた空間が閉じきらずに残り、そこにリンパ液がたまったもので、手術から2週間ごろまでに出てきます。押しても横になっても消えないのが、再発との違いのひとつです。ご自分での区別は難しいので、超音波で確かめます。
漿液腫の多くは、そのまま体に吸収されて引いていきます。なかなか引かないときは、針で中の液を抜きます。軽い腫れや違和感も、傷が治っていくにつれて変わっていきます。赤く腫れる、熱が続く、痛みが強くなるといった変化があれば、連絡してください。
水がたまる漿液腫は、再発とは別のものです。再発はお腹の壁の穴から腸や脂肪が出てくるもので、横になったり押したりすると戻ります。漿液腫は、日本内視鏡外科学会の全国集計で腹腔鏡の手術を受けた人の4.4%に起こっていて、多くは自然に引きます。
半年くらいまでの傷あとのつっぱり感は、傷あとが硬くなったり神経が回復したりする途中の、一時的なものも多いです。軽くなっているか、強くなっているかを見てください。3か月を過ぎても痛みが続くときは慢性疼痛といい、痛み止めで抑えられることも多いので、我慢せずにご相談ください。
傷が赤く腫れる、膿が出る、38℃以上の熱が続く、強い痛みが引かない、手術した場所にはっきりした膨らみが出てきた、といったときは連絡してください。膨らみが硬く戻らない、吐き気がある、激しい腹痛で便やガスが出ないときは、夜間や休日でも救急外来を受診してください。
まとめ
手術のあとの膨らみは、多くが漿液腫です。日がたつうちに引いていくもので、再発とは押したときや横になったときの変わり方が違い、超音波を当てれば見分けがつきます。
おさらい
- 手術から2週間ごろまでの膨らみは、多くが漿液腫。残るときは針で抜く
- 横になる・押すと戻る膨らみは、再発を疑って受診を
- 傷あとのつっぱり感は、軽くなっていくかで見る。3か月を過ぎる痛みは相談を
- 傷の赤み・膿・熱、戻らない膨らみ、激しい腹痛は待たずに連絡
これから手術を受けるかどうか考えている段階なら、脱腸の手術と術後の経過を通して知っておくと、手術のあとに起こることを前もって思い描けます。