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    鼠径ヘルニアは再発する?再発率と5つの前兆を専門医が解説

    田村 卓也 田村 卓也
    鼠径ヘルニア(脱腸)は再発する?

    以前に鼠径ヘルニア(脱腸)の手術を受けた方から、「足の付け根がまた気になる」「手術した側に違和感がある」というご相談をいただきます。決してめずらしいことではありません。

    きちんと治る病気ではありますが、再発の可能性をゼロにすることはできません。前兆を知っておけば、嵌頓(かんとん)という緊急事態に至る前に受診できます。

    大阪アルプスクリニック院長・田村卓也(外科専門医)が、再発率の目安、見逃したくない5つの前兆、原因、検査、再手術の考え方まで順にお話しします。ご自身の症状が再発かどうかを見分ける材料としてお使いください。

    この記事で分かること

    • 鼠径ヘルニアの再発率の目安と、手術方法による違い
    • 再発が起こりやすい時期(術後1〜2年と、10年以上経ってから)
    • 見逃したくない再発の5つの前兆
    • 再発が起こる原因(手術に関わる要因と、患者さん側の要因)
    • 再発を疑ったときの検査と受診先
    • 再手術の考え方と、日帰りで対応できるケース
    執筆者
    田村 卓也

    日本外科学会 外科専門医

    田村 卓也

    大阪アルプスクリニック院長 | 川崎医科大学医学部卒業後、大阪赤十字病院などで臨床経験を積む。鼠径ヘルニア(脱腸)を中心とした腹腔鏡による日帰り手術に注力し、患者さまの身体的負担を軽減すべく2022年に当院を開院。

    監修者
    所 為然

    一般社団法人日帰り手術推進機構 代表理事

    所 為然

    一般社団法人日帰り手術推進機構 代表理事 | 広島大学医学部医学科卒業後、大阪赤十字病院などで臨床経験を積む。身体負担の少ない腹腔鏡下で行う鼠径ヘルニア根治術で、患者さまの早期の社会復帰を実現。鼠径ヘルニア日帰り手術広島アルプスクリニック院長。

    1. 鼠径ヘルニアは再発するのか?再発率の目安

    鼠径ヘルニアは、手術後に再発することがあります。確率は手術方法によって大きく変わります。

    「再発」というのは、手術した側の同じ部位に、またヘルニア(臓器の脱出)が生じた状態です。手術で腹壁の弱い部分は補強されます。補強しきれなかった部分や、その周囲に新しい弱点ができると、そこから再び脱出が起こります。

    1-1. 手術方法別に見た再発率の違い

    ひとくちに手術方法といっても、大きく「組織縫合法(メッシュを使わず自分の組織を縫い合わせる方法)」と「メッシュ法(医療用メッシュで補強する方法)」の2つに分かれます。メッシュ法にも2種類あり、鼠径部を切開して行う鼠径部切開法と、お腹の内側からアプローチする腹腔鏡(内視鏡)手術があります。

    • 下表の数字は、あくまで「集団全体の平均的な目安」です
    • ヘルニアの大きさ、部位、体格、生活背景で個々のリスクは変わります
    • ご自身に当てはめるときは、幅を持たせてお考えください
    手術方法再発率の目安
    組織縫合法(メッシュを使わない方法)約10%前後
    現在のメッシュ法(鼠径部切開法・腹腔鏡手術)おおむね1〜3%
    手術方法別の再発率

    根拠となる情報源

    • Cochraneシステマティックレビュー(2018年):メッシュを用いた修復は、メッシュを用いない修復に比べて再発リスクを低下させると報告されています(21研究・5,575例、リスク比0.46)。
      出典:Lockhart K, et al. Mesh versus non-mesh for inguinal and femoral hernia repair. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2018.
      https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD011517.pub2/full
    • 国際ガイドライン(HerniaSurge Group, 2018年):再手術を代替指標とした再発率は歴史的に10〜15%に及ぶと報告されてきましたが、メッシュの普及に伴って低下してきたと整理されています。
      出典:HerniaSurge Group. International guidelines for groin hernia management. Hernia. 2018;22(1):1-165.
      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29330835/
    • デンマーク全国ヘルニアデータベース研究:67,306件の初回手術に対し、再発に対する再手術は3.1%と報告されています。
      出典:Bisgaard T, et al. Re-recurrence after operation for recurrent inguinal hernia. Ann Surg. 2008.
      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18362636/
    • 国内の診療ガイドライン:術式選択や再発鼠径ヘルニアの扱いについては、日本ヘルニア学会「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024」に整理されています。
      出典:2026年7月30日、日本ヘルニア学会HP閲覧、最新情報は https://jhs.gr.jp/guideline.html をご確認下さい。

    「1〜3%」という数字は、あなたに再発が起きないことを保証するものではありません。逆に、10年以上前に組織縫合法や旧世代のメッシュで手術を受けた方は、現在の標準治療を受けた方よりも再発の可能性は高いとみています。

    1-2. 再発しやすいのは手術後何年か

    再発が起きる時期には、2つの山があります。

    ① 術後1〜2年以内に起こるもの

    数としてはこちらが多数です。メッシュの位置ずれ、補強しきれていなかった部分からの脱出など、初回手術に起因する要因が、比較的早い時期に症状として出てきます。

    ② 10年以上経ってから起こるもの

    加齢による組織のゆるみ、旧世代メッシュの収縮、長年の腹圧負荷が積み重なって起こるパターンです。「手術から15年も経っているのだから再発ではないだろう」と考えて受診が遅れるケースが少なくありません。

    再発が起こる時期

    術後何年経っていても再発の可能性は残ります。「5年間なにもなかったから安心」とは考えないでください。年数の経過よりも、症状が出たときにご自身で気づけるかどうかが重要になります。

    1-3.「再発」と「反対側の新規発症」は別物

    この2つはよく取り違えられます。

    • 再発:手術した側の同じ部位に、再びヘルニアが生じたもの
    • 対側発症:手術していない反対側に、新たにヘルニアが生じたもの

    医学的には、後者は再発に該当しません。もっとも、片側に鼠径ヘルニアが起きた方は反対側にも起こりやすく、10%以上の方が反対側にもヘルニアを生じると報告されています。

    出典:Zheng R, Altieri MS, Yang J, Chen H, Pryor AD, Bates A, Talamini MA, Telem DA. Long-term incidence of contralateral primary hernia repair following unilateral inguinal hernia repair in a cohort of 32,834 patients. Surg Endosc. 2017;31(2):817-822. doi:10.1007/s00464-016-5037-0

    「再発ではないから軽い」ということはありません。対側発症でも嵌頓(腸が飛び出したまま戻らなくなる状態)は起こります。左右どちらであっても、鼠径部に膨らみを見つけたら受診してください。

    2. 再発の前兆で見逃したくない5つのサイン

    ある日突然大きな膨らみが出るという形で始まることは、あまりありません。多くの場合、段階を追ってサインが現れます。ここでは症状の出やすい順に5つを挙げます。

    鼠径ヘルニア再発の5つの前兆(早見表)

    前兆段階
    膨らみが見えなくても足の付け根に鈍痛が走る初期
    足の付け根に引っ張られるような違和感・ツッパリ感がある初期
    手術した場所に再び「やわらかい膨らみ」ができる進行
    立ち上がったり、お腹に力を入れたりすると飛び出す進行
    横になったり手で押したりすると消える確定サイン

    2-1. 前兆①:膨らみが見えなくても「足の付け根に鈍痛」が走る

    見た目にはまったく変化がない段階でも、内部で再発が進んでいることがあります。この時期の症状は痛みだけです。

    歩いているとき、長く立っているとき、階段を上がるとき。足の付け根の奥がズーンと重く鈍く痛む、という訴えを多くいただきます。安静にしていると消えるので、「疲れかな」「筋肉痛かな」で片づけられがちです。

    膨らみがなく痛みだけでも、再発の兆候として注意が必要です。初発時と同様に「しこりや膨らみはなく、痛みだけが生じる」ケースがあることは、複数の専門施設が指摘しています。

    田村 卓也 院長

    専門医のワンポイント

    ご相談を受けるなかで、「膨らみが出ていないのに受診していいものか」と迷われる方が多いです。膨らみが出るまで待ってから来られると、その間に嵌頓が起きる可能性が残ります。痛みだけの段階でお越しいただいて、超音波で何もなければそれで構いません。判断材料を一緒に増やす、くらいのつもりでご相談ください。

    2-2. 前兆②:足の付け根に引っ張られるような違和感やツッパリ感がある

    痛みとは少し違う、「何か挟まっているような不快感」「下腹部がじわじわと引っ張られる感じ」「手術の傷あとの周りがツッパる感じ」が先行して現れることがあります。

    夕方や、立ち仕事・力仕事をした日の終わりに強くなり、翌朝には軽くなる。こうした日内変動があるのも特徴です。腹圧がかかっている時間が長いほど、症状は出やすくなります。

    とはいえ、術後半年以内の傷あと周囲のつっぱり感は、瘢痕(きずあとの硬さ)や神経の回復過程による一時的なものであることも多く、これだけで再発とは判断できません。判断のポイントは、時間の経過とともに悪化していくのか、それとも横ばいか改善しているのかという点です。

    2-3. 前兆③:手術した場所に再び「やわらかい膨らみ」ができる

    組織のゆるみが進むと、前回と同じ足の付け根の場所に、触るとやわらかい突起やしこりが現れます。

    触れた感じは、初回発症時よりも小さく、わかりにくいことも多いです。前回手術の瘢痕や、術後にできた漿液腫(水がたまったもの)との区別を、ご自身でつけるのは困難です。「前と同じ場所に、前より小さい何かがある」と感じた時点で、一度専門医の触診を受けていただくのが安全です。

    2-4. 前兆④:立ち上がったりお腹に力を入れたりすると飛び出す

    腹圧がかかったタイミングで膨らみがはっきり大きくなる。これは鼠径ヘルニアに特徴的な所見です。

    目立つのは、たとえばこんな場面です。

    • 立ち上がったとき、立っている時間が長いとき
    • 咳やくしゃみをしたとき
    • 重い物を持ち上げたとき
    • 排便でいきんだとき
    • 長時間の立ち仕事の後や、夕方以降

    鼠径ヘルニアの診察を必ず立った状態で行うのは、こうした理由からです。受診の際に「立つと出る」「夕方に出る」と具体的に伝えていただけると、診断の精度が上がります。

    田村 卓也 院長

    専門医のワンポイント

    ご相談を受けるなかで、午前中に受診されて「今日は出ていませんね」で終わってしまう方が多いです。症状が夕方に出る自覚があるなら、午後の予約をお取りいただくほうが確実です。診察の順番をお待ちいただく間、あえて座らずに立っていただくこともあります。

    2-5. 前兆⑤:横になったり手で押したりすると消える【確定サイン】

    横になってリラックスしたり、指で軽く押したりすると、膨らみがお腹の中に戻る。ヘルニア(脱腸)に特有の、決定的な所見です。

    腹壁の穴を通って出入りしているからこそ、戻るわけです。脂肪のかたまりやリンパ節の腫れであれば、押しても横になっても消えることはありません。

    この所見が確認できた場合は、再発の可能性が高いとお考えください。注意点が2つあります。

    • 強い力で押し込もうとしないでください。腸を傷つける危険があります。
    • 「戻るから大丈夫」ではありません。戻る状態のうちに治療することが、嵌頓を防ぐ最善の方法です。
    再発の5つの前兆

    2-6. 自分で確認するときの手順

    ご自宅でセルフチェックをするなら、この順序で行ってください。

    1. 明るい場所で、鏡の前に立ちます。 下着を下げ、足の付け根全体が見える状態にします。
    2. 左右を見比べます。 手術した側だけが膨らんでいないか、左右差を確認します。
    3. 軽く咳をする、または軽くお腹に力を入れます。 このとき膨らみが出てくるかを見ます。
    4. 膨らみに指をそっと当てます。 やわらかいか、硬いか、押すと痛むかを確認します。
    5. 仰向けに寝て、数分待ちます。 膨らみが小さくなる、または消えるかを確認します。

    確認しないでいただきたいこと:強く押し込む、無理に戻す、痛みを我慢して圧迫する。いずれも危険です。判断に迷ったときは、その状態で受診してください。

    スマートフォンで立ったときの写真を撮っておいていただけると、診察のとき大きな手がかりになります。診察室では膨らみが出ないことがあるからです。

    2-7. すぐに受診が必要なサイン(嵌頓)

    次の症状がある場合は、前兆ではなく緊急事態です。夜間・休日であっても、ためらわず救急外来を受診してください。

    • 膨らみが戻らなくなった
    • 膨らみが硬くなった、赤くなった、熱をもっている
    • 強い痛みが続き、時間とともに悪化している
    • 吐き気・嘔吐がある
    • お腹全体が痛む、お腹が張って便やガスが出ない

    これは嵌頓(かんとん)という状態です。飛び出した腸が締めつけられて血流が悪くなっています。放置すると腸が壊死し、腸を切除する緊急手術が必要になることがあります。再発したヘルニアでも嵌頓は起こります。

    関連記事:鼠径ヘルニアかも?症状セルフチェック5項目とサインを専門医が解説

    3. 再発が起こる原因

    原因は大きく、「手術に関わる要因」と「患者さんご自身の要因」に分けられます。どちらか一方だけが原因になることは少なく、両方が重なって起こる場合が大半を占めます。

    再発が起こる原因

    3-1. 手術手技・術式に関わる要因

    最も影響が大きいのは、初回手術の方法と、その精度です。

    • メッシュを使わない組織縫合法だった:組織を糸で引き寄せて縫うため、縫合部に張力がかかり続け、時間とともにゆるみます。再発率が高い最大の理由です。
    • メッシュの覆う範囲が不足していた:ヘルニア門(腹壁の穴)だけでなく、その周囲の弱い部分まで広く覆えていないと、覆われていない縁から新たに脱出します。内鼠径輪の周囲、大腿輪の付近は解剖学的に複雑で、確実な補強に技術を要する部位です。
    • ヘルニアが大きかった、複数の穴があった:穴が大きいほど、また複数箇所に弱点があるほど、確実な補強の難易度が上がります。
    • 執刀医の経験:腹腔鏡手術には一定のラーニングカーブがあり、国際ガイドラインでも、開腹メッシュ手術と同等の成績を得るには相当数の指導下手術経験が必要とされています(出典:HerniaSurge Group, 2018. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29330835/ )。手術件数の多い施設を選ぶことが推奨される理由の一つです。

    3-2. メッシュのずれ・収縮

    メッシュ自体が破れて臓器が出てくることはありません。問題になるのは、位置と面積です。

    • 固定前のずれ:メッシュが体内の組織に固定・一体化するまでには、おおむね2週間〜1か月かかります。この期間に強い腹圧がかかると、メッシュがずれて、覆えていない部分から脱出することがあります。
    • メッシュの収縮:2009年以前に主に使われていたヘビーウェイトメッシュは、体内で30%以上収縮することがあり、当初覆えていた範囲をカバーしきれなくなる場合があります。現在は収縮しにくい素材が主流です。

    古い時期に手術を受けた方の再発には、この収縮が関わっているケースがあります。

    3-3. 腹圧・生活習慣など患者側の要因

    手術が適切に行われていても、腹圧が繰り返しかかる生活が続けば再発リスクは上がります。

    • 力仕事・立ち仕事:荷物の上げ下ろし、長時間の起立は、鼠径部に持続的な負荷をかけます。
    • 肥満:内臓脂肪が腹圧を常時高めます。減量は再発予防に有効です。
    • 喫煙:慢性的な咳による腹圧上昇に加え、組織の治癒や強度にも影響します。
    • 慢性の咳:COPD、喘息、長引く咳は、日常的に強い腹圧を発生させます。
    • 便秘:排便時のいきみは、腹圧が最も高くなる場面の一つです。
    • 前立腺肥大による排尿時のいきみ:見落とされやすい要因です。
    • 過度な筋力トレーニング:ここは特に注意が必要です。腹筋を鍛えても、ヘルニアが出てくる筋膜の弱い部分は強化できません。腹圧を上げるだけで、かえって再発を招く恐れがあります。「再発予防のために腹筋を鍛える」という考え方は、残念ながら逆効果になり得ます。

    関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)の原因は?男性に多い理由を専門医が解説

    4. 再発を疑ったときの検査と受診先

    4-1. 問診と触診で分かること

    診察では、まず次の点をお伺いします。思い出せる範囲で結構ですので、受診前に整理しておいていただけると診断が早く進みます。

    • 前回の手術はいつ受けたか(年月)
    • どこの医療機関で受けたか
    • どの手術方法だったか(鼠径部切開法か腹腔鏡手術か、メッシュを使ったか)
    • 手術記録や退院時の書類が残っているか
    • 今の症状はいつから、どんなときに出るか

    手術記録のコピーがあれば、必ずご持参ください。メッシュの種類や留置位置がわかると、再手術の方針決定が大きく変わります。

    触診は、立った状態と横になった状態の両方で行います。膨らみが出るか、やわらかいか、押すと戻るか、瘢痕との関係はどうか。腹圧をかけた状態(咳をしていただく、いきんでいただく)での評価も併せて行います。

    田村 卓也 院長

    専門医のワンポイント

    ご相談を受けるなかで、「前の病院の書類はもう捨ててしまいました」とおっしゃる方が多いです。手元になくても、手術を受けた医療機関に問い合わせれば、手術記録の写しを出してもらえることがほとんどです。受診前に一本お電話を入れておいていただけると、こちらで検討できる材料が一段増えます。

    4-2. 超音波・CTによる確認

    超音波(エコー)検査が第一選択です。放射線被ばくがなく、その場で行えます。何より、立った状態や腹圧をかけた状態でリアルタイムに観察できるので、「力を入れたときだけ出てくる」再発の診断に向いています。腹壁の欠損部、脱出している内容(腸、脂肪など)、メッシュの位置も評価できます。

    CT検査は、超音波では判断が難しい場合、複数のヘルニアが疑われる場合、術前の全体像を見ておきたい場合などに追加します。メッシュの位置、癒着の程度、他の疾患の除外に有用です。

    これらの検査で、瘢痕、漿液腫、リンパ節腫大、大腿ヘルニア、その他の疾患との区別をつけていきます。

    4-3. 何科を受診すればよいか

    外科、消化器外科、または鼠径ヘルニアを専門とするクリニックです。整形外科や内科ではありません。「足の付け根の痛み」で整形外科に相談される方は多いのですが、ヘルニアは腹壁の病気です。

    一度再発した方の場合、初回手術と再手術では難易度が大きく異なるため、可能であれば鼠径ヘルニアの手術件数が多い施設、再発例の経験がある医師の診察をお受けになることをおすすめします。まずは前回手術を受けた医療機関に相談し、必要に応じて専門施設を紹介していただくという流れも合理的です。

    他院で手術を受けた方の再発でも、診察・治療は可能です。当院にも、他院で手術を受けられた方が再発のご相談で来院されています。

    関連記事:その症状、鼠径ヘルニアではないかも?見分け方と類似疾患を専門医が解説

    5. 再発した場合の治療と再手術の考え方

    5-1. 初回が鼠径部切開法だった場合

    原則として、腹腔鏡(内視鏡)手術での修復が推奨されます。

    前回切開した部分には瘢痕(きずあと)と癒着が残っています。同じ道を通れば、神経や精索(男性の場合)を傷つけるリスクが高くなります。腹腔鏡手術なら、お腹の内側という「触っていない層」からアプローチできるので、瘢痕を避けて修復できます。

    国際ガイドラインでも同じ推奨です。前方到達法(鼠径部切開法)後の再発には後方到達法(腹腔鏡)が推奨されています。

    出典:HerniaSurge Group. International guidelines for groin hernia management. Hernia. 2018. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29330835/

    5-2. 初回が腹腔鏡手術だった場合

    初回が腹腔鏡だった場合は、向きが逆になります。鼠径部切開法での修復が推奨されます。

    考え方は5-1と同じで、前回操作した層を避けます。腹腔鏡手術後は腹膜前腔にメッシュと癒着があり、同じ層に再度入るのは危険が伴います。前方から、触られていない層を経由してアプローチするほうが安全です。

    こちらも国際ガイドラインの推奨と一致します(出典:前掲)。

    再手術のアプローチ

    前方・後方の両方の手術を受けた後の再々発については、ヘルニア専門医による対応が推奨されています。

    5-3. 再手術の難易度と注意点

    正直に申し上げると、再手術は初回手術より難しく、合併症のリスクも上がります。

    • 瘢痕と癒着により、正常な解剖構造がわかりにくくなっている
    • 前回留置されたメッシュが周囲組織と一体化している
    • 神経損傷(慢性疼痛の原因)、血管損傷、精索・精巣への影響、腸管損傷のリスクが初回より高い
    • 再々発の可能性も初回再発時より高い

    デンマークの全国データベース研究では、初回手術に対する再発手術が3.1%であったのに対し、再発手術を受けた後さらに再手術となった割合は8.8%と、明らかに高い数値が報告されています。

    出典:Bisgaard T, et al. Re-recurrence after operation for recurrent inguinal hernia. Ann Surg. 2008. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18362636/

    二度目だからこそ、「一度で確実に」が原則になります。前回の情報を可能な限り集めたうえで適切な術式を選び、経験のある医師が執刀することが必要です。安易に同じ方法を繰り返すことは避けなければなりません。

    5-4. 日帰りで対応できるケース

    二度目の手術であっても、日帰りで対応できるケースはあります。判断にあたっては、次の点を確認しています。

    • 前回の手術方法が明確にわかっている
    • 前回と異なるアプローチ(前方↔後方)が選択できる
    • ヘルニアのサイズが大きすぎない
    • 全身状態が安定しており、術後に付き添いや連絡体制がある
    • 通院可能な距離にお住まいである
    • 前回手術の情報が不明である
    • 前方・後方の両方の手術歴がある(再々発)
    • 広範な癒着や、腸管の関与が予想される
    • 嵌頓している、または嵌頓の疑いがある
    • 合併症のリスクが高い基礎疾患がある

    診察と検査を行った上で、安全性を最優先に判断します。「再発だから必ず入院」でも「日帰りで必ず対応できる」でもありません。安全に日帰りで行えないと判断した場合は、当院から入院設備のある連携医療機関をご紹介します。この判断を曖昧にしないことが、患者さんの利益になると考えています。

    関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)の腹腔鏡による日帰り手術のメリット

    6. 再発を防ぐために術後の生活で気をつけること

    6-1. 腹圧を上げない生活習慣

    日常のなかで腹圧を下げる工夫が、そのまま再発予防になります。

    • 減量:肥満は腹圧を常時高めます。無理のない範囲で体重を落とすことは、最も効果的な対策の一つです。
    • 禁煙:咳の軽減にも、組織の治癒にも良い影響があります。
    • 便秘の解消:食物繊維と水分を意識し、必要なら緩下剤を使ってください。排便時に強くいきむ習慣は避けます。
    • 咳の治療:長引く咳は、我慢せず原因の治療を受けてください。
    • 排尿の問題への対処:前立腺肥大などで排尿時にいきむ習慣がある方は、泌尿器科での治療をご検討ください。
    • 物の持ち上げ方:腰を落とし、体に近づけて持ち、息を止めずに持ち上げます。

    なお、お仕事を辞める必要はありません。立ち仕事・力仕事を完全にやめることは現実的ではありませんし、生活の質を落としてまで制限をかけることは本意ではありません。持ち上げ方の工夫、休憩の取り方、体重管理といった実行可能なところから始めていただければ十分です。

    6-2. 受診の目安

    • 症状が出たとき:それが最も大切なタイミングです。この記事の5つの前兆のいずれかに気づいたら、次の定期受診を待たずにご相談ください。

    「様子を見る」という判断が最も危険なのは、嵌頓の可能性がある場面です。膨らみが戻る状態のうちに、必ず受診してください。

    関連記事:鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術後の痛みと回復期間を解説

    まとめ

    • 鼠径ヘルニアは再発することがあり、可能性をゼロにはできません。再発率の目安は、メッシュを用いた現在の手術でおおむね1〜3%、メッシュを使わない組織縫合法では約10%前後です。
    • 再発は術後1〜2年以内に多い一方、10年以上経ってから起こることもあります。年数が経ったからといって可能性が消えるわけではありません。
    • 前兆は、①膨らみのない鈍痛 → ②引っ張られる違和感 → ③やわらかい膨らみ → ④腹圧をかけると飛び出す → ⑤横になる・押すと消える(確定サイン)という順に現れることが多いです。
    • 膨らみが戻らない、硬い、強い痛み、吐き気がある場合は嵌頓の可能性があり、緊急受診が必要です。
    • 原因は、手術手技・メッシュの状態と、腹圧・生活習慣の両方が関わります。腹筋トレーニングによる予防はできません。
    • 再手術は初回より難易度が高く、前回と異なるアプローチを選択することが国際ガイドラインで推奨されています。前回手術の情報が方針決定を大きく左右します。
    • 受診先は外科・消化器外科、またはヘルニア専門施設です。他院で手術を受けた方の再発も診察できます。

    心配な方は、「膨らみが戻るうち」にご相談ください。当院は鼠径ヘルニアの日帰り手術を専門としており、再発が疑われる方の診察・超音波検査にも対応しています。安全に日帰りで行えないと判断した場合は、入院可能な連携医療機関をご紹介します。

    よくある質問

    鼠径ヘルニアは再発しますか?

    はい、再発することがあります。医療用メッシュを用いた現在の手術では再発率はおおむね1〜3%まで低下していますが、ゼロにはなりません。メッシュを使わない組織縫合法で手術を受けた場合は、約10%前後と報告されています。 出典:Lockhart K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018. https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD011517.pub2/full /HerniaSurge Group. Hernia. 2018. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29330835/

    再発するとしたら手術後何年くらいですか?

    術後1〜2年以内が最も多いとされていますが、10年以上経ってから再発する方もおられます。とくに古い術式や旧世代のメッシュで手術を受けた場合、長期間を経て再発することがあります。年数の経過だけで安心せず、症状が出たかどうかで判断してください。

    再発したまま放置するとどうなりますか?

    膨らみは徐々に大きくなり、痛みや違和感も強くなる傾向があります。最も注意すべきは嵌頓(かんとん)です。飛び出した腸が締めつけられて血流が悪くなり、腸が壊死すると緊急手術が必要になります。再発したヘルニアでも嵌頓は起こります。また、放置してヘルニアが大きくなるほど、手術の難易度も上がります。自然に治ることはありませんので、早めの受診をおすすめします。

    再発を疑ったら何科を受診すればよいですか?

    受診先は外科、消化器外科、または鼠径ヘルニアを専門とするクリニックです。整形外科ではありません。再発例は初回より手術が難しいため、鼠径ヘルニアの手術件数が多い施設での診察をおすすめします。受診時には、前回の手術時期・医療機関・手術方法(可能であれば手術記録のコピー)をお持ちいただくと、方針の判断が正確になります。

    再発した場合も日帰り手術は可能ですか?

    可能です。初発の場合と同様、全身状態が安定している場合は、日帰り手術を検討できます。一方で現在嵌頓が疑われる場合などは、入院での対応が望ましいと考えます。診察と検査の結果をもとに、安全性を最優先に判断し、必要に応じて連携医療機関をご紹介します。

    参考文献・出典一覧

    診療ガイドライン・システマティックレビュー

    1. 日本ヘルニア学会「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024」
      2026年7月30日、日本ヘルニア学会HP閲覧、最新情報は https://jhs.gr.jp/guideline.html をご確認下さい。
    2. HerniaSurge Group. International guidelines for groin hernia management. Hernia. 2018;22(1):1-165.
      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29330835/
    3. Lockhart K, Dunn D, Teo S, et al. Mesh versus non-mesh for inguinal and femoral hernia repair. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2018;9:CD011517.
      https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD011517.pub2/full
    4. Zheng R, Altieri MS, Yang J, Chen H, Pryor AD, Bates A, Talamini MA, Telem DA. Long-term incidence of contralateral primary hernia repair following unilateral inguinal hernia repair in a cohort of 32,834 patients. Surg Endosc. 2017;31(2):817-822. doi:10.1007/s00464-016-5037-0
    5. Bisgaard T, Bay-Nielsen M, Kehlet H. Re-recurrence after operation for recurrent inguinal hernia. A nationwide 8-year follow-up study on the role of type of repair. Ann Surg. 2008.
      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18362636/