鼠径部の痛みは何が原因?膨らみがないのに痛いときの見分け方と類似疾患を専門医が解説
鼠径部(そけいぶ)が痛い。足の付け根が痛い、と言っても同じ場所です。けれど膨らみもしこりも無い。原因は筋肉や股関節のこともあれば、膨らみが出る前の鼠径ヘルニアのこともあります。
見当をつける手がかりは3つで、膨らみがあるか、押すと痛いか、動かすと痛いか。この3つで、外科で診るものと整形外科や泌尿器科・婦人科で診るものが分かれます。鼠径ヘルニア(脱腸)の日帰り手術を専門にしている外科医の立場から、痛みの振り分け方を書いておきます。
なお、鼠径ヘルニアの手術後の痛みは別のページで扱っています。ここでは、まだ診断がついていない痛みの話です。
この記事で分かること
- 鼠径部の痛みを「膨らみ」「押す」「動かす」の3つで分ける見方
- 膨らみがなくても鼠径ヘルニアのことがある理由と、痛みの出る場所
- 筋肉・腱・股関節の痛みと、リンパ節の腫れの見分け
- 女性に多い原因、男性に多い原因、右や左だけが痛むとき
- その日のうちに受診したほうがよい痛み
- 外科・整形外科・泌尿器科・婦人科のどこへ行くか
目次
1. 鼠径部の痛みは「膨らみ」「押す」「動かす」の3つの質問で分ける
この部位の痛みを外来で診るとき、私が最初に確かめることは決まっています。膨らみがあるか、押すと痛いか、脚を動かすと痛いか、の3つです。
3つの答えがそろえば候補はかなり絞れますので、順番に確かめていく流れを図にしました。

| 痛み方 | 考える病気 | 受診先 |
|---|---|---|
| 膨らみがある | 鼠径ヘルニア・嵌頓・リンパ節の腫れ・できもの | 外科・消化器外科 |
| 動かすと痛む | 筋肉・腱・恥骨・股関節 | 整形外科 |
| 押すと痛い | リンパ節の腫れ・化膿したできもの | 外科・皮膚科 |
| しびれる・ヒリヒリ | 皮膚の神経の圧迫 | 外科・整形外科 |
| どれにも当たらない | 膨らみが出る前の鼠径ヘルニア・女性や男性に特有の原因 | まず外科 |
痛みの出方が違えば行く科も変わる、というのがこの表の要点で、以下ひとつずつ説明します。
1-1. 膨らみがある痛み
鼠径部に膨らみやしこりがあって痛むなら、話は早いほうです。立つと出て横になると引っ込む膨らみは鼠径ヘルニア、押すと痛い豆のようなしこりはリンパ節の腫れ、赤く腫れて熱をもつなら化膿したできもの。鼠径部のしこりの見分け方は別のページで7つの病気に分けて整理してあります。
膨らみが押しても戻らず、痛みが強くなっているときは、その日のうちに受診してください。嵌頓(かんとん)といって、腸が締めつけられている可能性があります(7章)。
1-2. 膨らみがなく、動かすと痛む
膨らみはないのに、歩く、脚を上げる、蹴るといった動作で痛み、休ませると軽くなる。この出方なら筋肉や腱、股関節の側の痛みをまず考えます(3章)。
1-3. 膨らみがなく、皮膚がしびれる・ヒリヒリする
痛みというより、太ももの外側の皮膚がしびれる、触るとヒリヒリする。こういうときは、皮膚の感覚を担当する神経がベルトや締めつけの強い服で圧迫されていることがあります。鼠径部を通る神経の話は鼠径部の場所と構造のページに書きました。
どれにも当てはまらず、膨らみもしこりもないのに鈍く痛む。実はこれが、外科医としていちばん見逃したくない出方で、次の章で書きます。
2. 膨らみがなくても鼠径ヘルニアのことがある
気づくきっかけは膨らみ、という鼠径ヘルニアの理解はそのとおりです。とはいえ、膨らみは最初からあるわけではありません。
2-1. 膨らみが出る前の痛みは、どこに出るか
腹膜が鼠径管というトンネルを通って皮膚の下まで袋状に押し出されてくるのが、鼠径ヘルニアという病気です。この過程で鼠径管を作っている筋膜がわずかに裂けることがあり、そのときに痛みが出る方がまれにいます。
出る場所は決まっていて、恥骨の斜め上外側に1cmほどずれたあたり。この時期はまだ、膨らみとして感じることはありません。

しこりがはっきり触れないのに痛みだけがある、という方は実際にいらっしゃいます。超音波で確かめると、腸が出てきているのが分かることもあります。
2-2. 夕方に出る膨らみと、立ち上がるときの違和感
違和感の段階でも、サインはあります。歩くと鼠径部がつっぱる、立ち上がるときに引っかかる、重い物を持つと重だるい、昼間は何もないのに夕方や夜になると膨らみが出る。この4つが代表です。
膨らみが出る前のサイン
- □ 歩くと鼠径部がつっぱる
- □ 立ち上がるときに違和感がある
- □ 重い物を持つと、鼠径部が重だるい
- □ 昼間は何もないのに、夕方や夜に膨らみが出る
こうした違和感だけの段階で受診される方は、正直なところ多くありません。気のせいかもと考えるのは自然なことですが、進行する前のほうが治療の選択肢は広く取れます。症状のセルフチェックを一度ご覧になってください。
2-3. 診察で行うこと
ガイドラインの話をしておくと、膨らみがはっきりしないのに痛みや違和感がある場合、日本ヘルニア学会は、立った姿勢でお腹に力を入れながら行う超音波検査を第一選択に挙げています(CQ3-1)。当院でも同じやり方です。
超音波でヘルニアが見つからないときは、CTで鼠径ヘルニア以外の原因を含めて調べることがあります。ガイドラインは、内転筋の腱炎、恥骨炎、股関節症、腸骨滑液包炎、子宮内膜症の診断にMRIが使えるとも書いています(CQ3-1)。痛みの原因を絞るための検査は、こうして段階的に進めます。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「膨らみは無いけれど、ここが痛い」と鼠径部を指で押さえて来られる方がいらっしゃいます。押さえている場所が恥骨の斜め上外側なら、超音波で腸の出入りを確かめます。何も出ていなければ、それはそれで安心材料。膨らみが無いことを理由に受診をためらう必要はありません。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ3-1
3. 動かすと痛むとき:筋肉・腱・股関節
脚を動かしたときだけ痛み、膨らみは無い。この出方は、鼠径部に集まる筋肉や腱の側の痛みです。
股関節を曲げる腸腰筋と、太ももを内側に引き寄せる内転筋群がここに集まっていて、サッカーや陸上のように蹴る・走るを繰り返す競技では、内転筋の付け根や恥骨の周りに炎症が起きて痛むことがあります。使いすぎが原因なら、休ませると軽くなるのがふつうです。
整形外科の病気が鑑別に挙がるのは学会も同じで、鼠径ヘルニアと見分けるべき病気として挙げているのは、内転筋腱炎、恥骨炎、股関節症、腸骨滑液包炎といった整形外科の病気です(CQ3-1)。痛みが長引く、休んでも戻らない、股関節の動きが悪い。そういうときは整形外科での診察が向いています。
筋肉・腱・股関節の痛みの特徴
- □ 蹴る・走る・脚を上げる動作で痛む
- □ 押しても膨らみやしこりは無い
- □ 休ませると軽くなる
- □ 股関節そのものの動きが悪い、音がする
筋肉の痛みとヘルニアの膨らみは、診察で区別がつきます。迷うのは、膨らみが小さくて分かりにくい初期のヘルニアと、内転筋の腱炎が重なっているような場合。そのときは超音波で腸の出入りを確かめてから、整形外科へお渡しします。
4. 押すと痛いとき:リンパ節の腫れ・できもの
指で押すとはっきり痛むときは、炎症か感染が起きている可能性が高くなります。候補に入るのは、リンパ節の腫れ、化膿したできもの、炎症を起こした粉瘤あたりです。
鼠径部にはリンパ節がまとまって並んでいます。足の傷や水虫、性感染症が引き金になって腫れ、押すと痛い豆のようなしこりとして触れます。原因が治まれば小さくなるのがふつうで、1cmを超えるものは経過観察の対象になります。

ここで一つ、逆の話をしておきます。痛くないから軽い、とは言えません。鼠径ヘルニアは初期に痛みがほとんど出ませんし、痛くもなく硬いしこりが何週間も同じ場所に残っているなら、むしろ慎重に調べる場面です。足の付け根のしこりをどのくらい様子見してよいかは、別のページにまとめています。
緊急性の目安にはなっても、重さの目安にはならない。痛みの有無とは、この部位ではそういうものです。
5. 女性に多い原因、男性に多い原因
通っているものが男女で違う場所なので、痛みの原因にも男女差があります。

5-1. 女性の鼠径部の痛み
20〜40代の女性で鼠径部のしこりを見たとき、まず候補に挙がるのがNuck管水腫(ヌックかんすいしゅ)です。子宮円索とともに鼠径管に入り込んだ腹膜の袋の名残に液体がたまり、やわらかいしこりとして触れます。見た目だけではヘルニアと区別しにくく、超音波で確かめます。
ガイドラインは、鑑別に挙がる病気として子宮内膜症と、妊娠中の子宮円靭帯静脈瘤も挙げています(CQ3-1)。月経の周期に合わせて痛みが強くなるなら婦人科の領域で、妊娠中の鼠径部のしこりや痛みは、血流を映す超音波で見分けがつきます。
「片方だけ」「チクチク」「ズキズキ」といった訴えで来られる方も多いのですが、痛みの言葉だけで病気を決めることはできません。膨らみの有無と、押して痛いか、動かすと痛いかを一緒に確かめます。女性の鼠径ヘルニアは数が少ないぶん見逃されやすく、大腿ヘルニアの割合が男性より高いことも覚えておいてください。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、女性の方が「脱腸は男性の病気だと思っていた」とおっしゃることがよくあります。数が少ないのは事実ですが、女性には大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアのように、膨らみが目立たないまま痛みだけが出る型があります。痛みが続くなら、一度は外科で診てもらってください。
5-2. 男性の鼠径部の痛み
男性で気をつけたいのは、陰嚢や精巣の側の病気です。陰嚢水腫や精索水腫は、陰嚢の中だけがふくらんで押しても引っ込みません。鼠径ヘルニアは鼠径部から続いていて、押せば戻る。迷うときは超音波で、中身が液体なのか腸なのかを確かめます。
精巣のまわりに水がたまる仕組みは、陰嚢に水がたまる陰嚢水腫のページで説明しています。
ちなみに鼠径ヘルニアそのものでも、片側の陰嚢が痛いと訴えられる方がいます。鼠径管の後壁から出る内鼠径ヘルニアで膀胱が脱出すると、残尿感や頻尿が出ることもあります。
精巣が急に強く痛む、腫れて熱をもつ。こういうときは鼠径部の話ではなく、泌尿器科で急いで診てもらう病気を考えます。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ3-1
6. 右だけ、左だけが痛むとき
右の鼠径部だけが痛い。左の鼠径部だけが痛い。どちらも珍しくありません。一方の側だけに出るのはむしろ普通で、鼠径ヘルニアは片側に出ることが多く、リンパ節の腫れも、原因となる傷や感染がある側だけに出ます。両側に出る方もいますが、右だから、左だから、という理由で病気が変わることはありません。
覚えておいていただきたいのは、太ももの内側の痛みやしびれです。骨盤の骨に囲まれた閉鎖孔という穴から腸が抜け出す閉鎖孔ヘルニアは、場所が深いので外から膨らみがほとんど見えず、代わりに太ももの内側の痛みやしびれが出ます。痩せた高齢の女性に多い型です。
「太ももの内側が痛い」で整形外科を回り、腸閉塞を起こしてから見つかる。そういう経過を、実際の診療で何度か経験しています。片側の太ももの内側が痛み、吐き気や便が出ない症状を伴うなら、外科を受診してください。
同じく膨らみが分かりにくい型に、鼠径靭帯の下から出る大腿ヘルニアがあります。穴が小さく硬いぶん嵌頓しやすく、高齢の痩せ型の女性に多いとされてきました。
7. その日のうちに受診する痛み
急を要する痛みは多くありませんが、次の出方は別です。
その日のうちに受診するサイン
- □ 押しても戻らない膨らみがあり、痛みが強くなっている
- □ 激しい腹痛や嘔吐を伴う
- □ しこりの部分が赤く腫れて熱をもち、38℃以上の発熱がある
- □ 太ももの内側の痛みに、吐き気や便が出ない症状が重なる
- □ 精巣が急に強く痛む

最初の項目が嵌頓(かんとん)です。出てきた腸が締めつけられて戻らなくなり、血流が止まる状態で、放置すると腸が壊死し、腹膜炎へ進むことがあります。夜間や休日でも、救急外来を受診してください。
8. 何科に行くか
受診先を痛みの出方ごとに表にまとめます。あくまで目安で、迷ったら次の節のとおりにしてください。
| 痛み方 | 受診先 | 理由 |
|---|---|---|
| 膨らみがある | 外科・消化器外科 | 鼠径ヘルニアの診断がその場でつく |
| 動かすと痛む | 整形外科 | 筋肉・腱・股関節の病気 |
| 押すと痛い | 外科・皮膚科 | リンパ節・できもの |
| 月経に関係する | 婦人科 | 子宮内膜症など |
| 精巣が痛い | 泌尿器科 | 精巣・陰嚢の病気 |
| よく分からない | 外科・消化器外科 | 膨らみのないヘルニアを含めて調べられる |

8-1. 迷ったら外科・消化器外科
どこへ行けばよいか決められないときは、外科・消化器外科を入口にしてください。鼠径ヘルニアならその場で診断がつきますし、筋肉や股関節、泌尿器科や婦人科の病気なら、適した科へつなげます。かかりつけの内科から紹介状をもらう流れでも構いません。
8-2. 当院での診察
当院は、鼠径ヘルニア(脱腸)の日帰り腹腔鏡手術に特化したクリニックです。日本外科学会の外科専門医が診察し、膨らみが無い痛みでも、立った姿勢での超音波で腸の出入りを確かめます。手術件数は最新の手術実績で月ごとに公表しています。
診断だけでも構いません。ヘルニアでなければ、そのことをお伝えして必要な科をご案内します。初めて受診されるときの流れや持ち物は別のページにまとめています。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「整形外科で異常なしと言われたが、まだ痛い」という方がいらっしゃいます。筋肉や関節に異常が無いなら、次に疑うのは膨らみの出ていないヘルニアです。超音波で一度確かめる価値はあります。
よくある質問
痛みだけで、がんかどうかを判断することはできません。外来で調べる理由になるのは、痛くもなく硬いしこりが何週間も同じ場所に残っているときです。そうしたしこりは、痛みがなくても一度診てもらってください。
どれも同じ場所を指す言い方です。医学では鼠径部と呼び、鼠蹊部とも書きます。呼び方が変わっても、見分け方は変わりません。膨らみがあるか、押すと痛いか、動かすと痛いか。この3つで振り分けます。
押すと痛い豆のようなしこりがあれば、リンパ節の腫れが候補に入ります。足の傷や水虫、性感染症が引き金になることが多く、原因が治まれば小さくなるのがふつうです。しこりが無く、動かすと痛むだけなら、リンパより筋肉や腱の側を考えます。
痛みの言葉だけで原因は決められません。膨らみがあるか、押すと痛いか、動かすと痛いかで見当をつけます。女性ではNuck管水腫、子宮内膜症、妊娠中の子宮円靭帯静脈瘤といった女性特有の原因のほか、大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアのように膨らみが目立たない型の脱腸もあります。
あります。膨らみが出る前に、恥骨の斜め上外側あたりに痛みだけが出る方がまれにいます。しこりが触れなくても、超音波で腸が出てきているのが分かることがあります。立った姿勢でお腹に力を入れながら行う超音波が、この場合の第一選択です。
膨らみがあるなら外科・消化器外科、動かすと痛むだけなら整形外科、精巣が痛むなら泌尿器科、月経に関係するなら婦人科が目安です。迷ったら外科・消化器外科を入口にしてください。ヘルニアかどうかをその場で確かめ、違えば必要な科へつなげます。
まとめ
- 鼠径部の痛みは「膨らみ」「押す」「動かす」の3つの質問で分ける
- 膨らみが無くても鼠径ヘルニアのことがある。痛みは恥骨の斜め上外側に出る
- 動かすと痛むだけなら整形外科、押すと痛いしこりはリンパ節の腫れを考える
- 太ももの内側の痛みやしびれは、閉鎖孔ヘルニアを疑う
- 押しても戻らない膨らみと強い痛みは、その日のうちに受診
- 迷ったら外科・消化器外科へ。診断だけの受診でも構わない
様子を見ているけれど痛みは続いている、膨らみは無い。そういう方に、超音波で一度確かめる選択肢があることを知っていただければと思います。