鼠径ヘルニア(脱腸)は何科を受診する?男性・女性別の行き先を専門医が解説
足の付け根がふくらんでいる。押すと引っ込む。痛みは、あるような無いような。そういう状態でどこを受診すればいいのかは、病院の看板を眺めてもまず分かりません。
こうしたふくらみ、いわゆる鼠径ヘルニア(脱腸)を診るのは、外科と消化器外科です。実際には、泌尿器科や整形外科のほうを先に受診される方がとても多いのですが。
場所が場所なので、迷って当然だと思います。女性なら婦人科を考えますし、男性なら陰嚢の変化から泌尿器科へ向かわれる。それで間違いというほどのことでもありません。もっとも、その科で何を調べられて、最終的にどこへ回されるのか。そこが分かっていると、動きが変わります。

この記事で分かること
- 鼠径ヘルニアを診るのは外科か消化器外科。男女とも同じ
- 泌尿器科・整形外科・婦人科に行ってしまう人が多い理由
- 女性の場合、どこへ行けばいいのか
- 男性の場合と、陰嚢の変化について
- いつ受診すればいいか。待ってはいけないとき
- 受診のときに持っていくもの、伝えること
- 病院とクリニックの選び方。「専門医」の表示をどう読むか
目次
1. 迷ったら、外科か消化器外科へ
外科と消化器外科。この2つが鼠径ヘルニアを診る科で、どちらにかかっていただいても構いません。
1-1. 扱うのは腹壁とその中身。だから外科
鼠径ヘルニアは、おなかの壁の弱くなったところから中のものが押し出されてくる病気です。扱う相手が腹壁とその中身なので、担当するのは外科。消化器外科というのは外科のなかの分野で、おなかの手術を主に扱うところです。どちらの科にかかっていただいても、鼠径ヘルニアは守備範囲の内側に入ります。

1-2. 出る場所が変わっても、科は変わらない
飛び出してくる場所がへそなら臍ヘルニア、足の付け根より少し下なら大腿ヘルニアと呼び名が変わります。飛び出す場所が変わっても、扱うのは同じ外科です。「ヘルニア外来」という看板が出ていれば、そこは外科が担当しています。
どこに飛び出しても、行き先は外科か消化器外科。男性でも女性でも変わりません
2. ほかの科に行ってしまう人が、なぜ多いのか
これは、日々の外来に立っているとよく分かることです。
2-1. 科ごとの、きっかけとそこで起きること
| 行きがちな科 | きっかけ | そこで起きること |
|---|---|---|
| 泌尿器科 | 陰嚢がふくらむ、尿が出にくい | 陰嚢水腫や前立腺の病気を調べたあと、外科へ回る |
| 整形外科 | 足の付け根の痛み、股関節のあたり | レントゲンで骨に異常が無く、そこから外科へ |
| 婦人科 | 女性で下腹部やそけい部のふくらみ | 卵巣や子宮を調べたあと、外科へ |
| 皮膚科 | しこりに見える | 粉瘤やリンパ節でないと分かり、外科へ |
どれも、出ている症状のほうから考えれば、ごく自然な選択だと思います。遠回りにはなりますが、どこかで必ず外科へつながります。そこで受けた検査が無駄になってしまうわけでもありません。
2-2. そもそもヘルニアかどうかを確かめる
ふくらみやしこりが本当にヘルニアなのかどうかは、ヘルニア以外の病気との見分けと足の付け根のしこりで、それぞれ整理しました。押したときに戻るかどうかが、ご自身で確かめられるひとつの目安になります。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「別の科にかかってしまって時間を無駄にした」と気にされる方がいらっしゃいます。そんなことはありません。そこで撮った画像も、聞き取った経過も、こちらで使わせていただきます。むしろ気にしていただきたいのは、受診そのものを先延ばしにしてしまうほうです。出ている時間が長くなるほど戻りにくくなりますし、戻らなくなってからだと選べる手だてが減ります。
3. 女性はどこへ行けばいいのか
女性の場合も、行き先は外科か消化器外科になります。
3-1. 婦人科と迷ったときの考え方
とはいえ、婦人科と迷われる方が本当に多いです。出てくる場所が近いうえに、女性では鼠径靱帯より下に出る大腿ヘルニアの割合が男性より高いとされていて、いっそう分かりにくくなります。

婦人科で卵巣や子宮のほうを調べて異常が無ければ、結局そのあと外科へ回ることになります。最初から外科に行っていただいて構いません。もちろん、月経に合わせて痛むなど婦人科側の症状がはっきりしているなら、そちらが先です。
3-2. 女性に特有の、紛らわしいふくらみ
女性に特有の紛らわしいものとしては、ヌック管水腫というふくらみがあります。押しても引っ込まないふくらみで、超音波を当てて中身が液体かどうかを見れば、その場で分かります。症状の出かたが男性とどう違うのかは、女性の鼠径部の痛みやしこりの見分け方のほうにまとめてあります。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、女性の方が「恥ずかしくて受診が遅れた」とおっしゃることがあります。場所が場所ですので、お気持ちはよく分かります。診察のときは必要な範囲だけを短時間で確認しますし、ご希望があれば女性スタッフに同席してもらうこともできます。受診を先延ばしにして戻らなくなるほうが、よほど大変です。
4. 男性の場合と、陰嚢の変化について
男性が泌尿器科へ向かわれるのには、はっきりした理由が2つ。
外鼠径ヘルニアの初期症状と左右の出かたでも触れていますが、外側から出るタイプは鼠径管を通ってそのまま陰嚢まで下りてくることがあります。陰嚢そのものが大きくなってくれば、まず泌尿器科を思い浮かべるのが自然だと思います。
4-1. 膀胱が引き込まれると、尿の出かたが変わる
内側から出るタイプでも、別のきっかけがあります。すぐ内側に膀胱があるため、引き込まれると尿が出しにくい、二度に分けて出るといった変化が出ることがある。これもまた、泌尿器科を受診される動機になります。
泌尿器科が先でよい場合もあります
- 陰嚢だけがふくらんでいて、押しても引っ込まない → 陰嚢水腫や精索水腫の可能性。泌尿器科でよい
- 精巣が急に強く痛む、腫れて熱をもつ → ためらわず泌尿器科か救急へ
- 足の付け根から続いてふくらみ、押すと戻る → 外科へ
- 尿の出にくさが前からあった方は、前立腺のほうを先に調べることもあります
4-2. 前立腺の手術を受けたことがある方へ

なお、前立腺を全部摘出する手術を受けたあとに鼠径ヘルニアが出てくることがあります。日本ヘルニア学会のガイドラインも、危険因子として前立腺全摘除術や前立腺肥大症などの下部尿路機能障害を挙げています。手術から何年か経ってからのことも多く、関係が無いと思われがちです。心当たりのある方は診察のときに教えてください。
関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)の原因は?男性に多い理由を専門医が解説
5. いつ受診すればいいか
急いだほうがよい場合と、そうでない場合とがあります。
受診の目安はひとつ。押して戻るうちは急ぎではありません。押しても戻らなくなったら、その日のうちに

硬くなって押しても戻らず、強い痛みや吐き気があるときは、その日のうちに受診してください。飛び出したものがはまり込んだ状態で、放っておける段階ではありません。はまり込んだ先で何が起きていて、なぜ時間との勝負になるのかは押しても戻らなくなったときにまとめてあります。
5-1. 急ぎではない段階と、その先
逆に、立ったときだけ出て横になると消えている段階であれば、明日どうこうという話ではありません。ただ、待っていて自然に閉じることもない。ガイドラインは症状がほとんど無い場合について手術と経過観察の双方を許容していますが、経過観察を選んだ方のうち数年のうちに3割以上が結局手術を受けたという報告も、同じ項目で紹介しています。
市販の器具で押さえる方法を試してから来られる方も、少なくありません。そちらについては自然に治るのか、自分で治せるのかのページで正面から答えています。
6. 受診のときに、持っていくもの・伝えること
用意していただくものは、多くありません。
持っていくと話が早いもの
- 保険証(マイナ保険証)、お薬手帳
- ふくらみが出ているときの写真。診察時に引っ込んでしまう方が多いので、これがいちばん助かります
- ほかの科で受けた検査の結果や紹介状。超音波やCTを撮っていればなお良いです
- 血をさらさらにする薬を飲んでいる方は、薬の名前が分かるもの
伝えていただきたいこと
- いつごろから出ているか。だんだん大きくなっているか
- 押すと戻るか。戻りにくくなってきていないか
- おなかの手術を受けたことがあるか。前立腺の手術を含みます
- お仕事の内容。立ち仕事や重い物を扱うかどうかで、復帰の見通しが変わります
6-1. 診察で実際に行うこと

診察では、立った姿勢と、おなかに力を入れていただいた姿勢の両方で診ます。押せば戻る鼠径部のふくらみがはっきりしていれば、たいていはその場で診断がつきますので、画像検査をひととおり並べることは、ガイドラインもその場合には推奨していません。足すのは、はっきりしないときの超音波だけ。それも立ったまま行います。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「紹介状は要りますか」と聞かれることがあります。当院は紹介状が無くても受診いただけます。ただ、ほかの科で撮った超音波やCTがあれば、お持ちいただけると助かります。同じ検査をもう一度することが減りますし、そのときと今とでどう変わったかも見られます。データのコピーだけでも構いません。
7. 病院とクリニック、どちらを選ぶか
ここは正直なところ、数字を並べて比べるということがしにくい領域になります。
「ヘルニアの専門医がいる施設を選ぶべきか」というご質問をよくいただきます。「ヘルニア専門医」という資格は、日本にありません。
ガイドラインに書かれていること
- 「専門施設あるいは専門医は確たる定義がなされていないのが現状である」
- 熟練の域に達するのに必要な経験数についても、確たるものはない
- ドイツとイタリアで学会認定の仕組みが提案されている段階で、国内の制度はまだ無い
- 手術成績については、経験のある内視鏡外科医の指導下であれば、術者の経験によって合併症や再発は変わらなかったという報告がある
鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024[第2版](日本ヘルニア学会)CQ20-1・CQ21-1 より
7-1. 「専門医」の表示をどう読むか
ですので、「ヘルニア専門医」という表示を見かけたら、どこが認定した資格なのかを確かめてみてください。学会名の付いていない「○○専門医」という書き方では、どこが認定したものなのか分かりません。当院の執刀医は日本外科学会の外科専門医です。

7-2. 総合病院とクリニックの向き不向き
| 総合病院 | 日帰り手術のクリニック | |
|---|---|---|
| 入院 | できる | できない |
| 持病がある方 | 対応しやすい | 状態によっては病院を紹介 |
| 待ち時間・日程 | 長くなりやすい | 組みやすい |
| ほかの病気が見つかったとき | 院内で完結しやすい | 紹介になる |
重い持病をお持ちの方について、日帰り手術を一律に勧められるだけの根拠はまだ無いというのがガイドラインの記載です。当院も、術前の検査結果と全身の状態しだいでは、入院設備のある病院をご紹介しています。腹腔鏡手術で何をしているのかと入院しない手術を選ぶ理由も、判断の材料にしてください。
当院は鼠径ヘルニアの日帰り手術に絞って診療しているクリニックです。大阪駅前にあり、土日も開けています。保険が使えますので自己負担がいくらになるかは高額療養費の計算とあわせてご覧ください。当日の流れと持ち物もまとめてあります。

よくある質問
外科、または消化器外科です。おなかの壁の弱いところから中のものが押し出される病気なので、腹壁とその中身を扱う外科が担当します。消化器外科は外科のなかの分野で、どちらにかかっても守備範囲の内側です。「ヘルニア外来」という看板が出ていれば、そこは外科が担当しています。
硬くなって押しても戻らず、強い痛みや吐き気があるときは、その日のうちに受診してください。飛び出したものがはまり込んだ状態です。立ったときだけ出て横になると消える段階なら、明日どうこうという話ではありません。ただ、待っていて自然に閉じることもありません。
外科か消化器外科です。場所が近いため婦人科と迷われる方はとても多く、女性では鼠径靱帯より下に出る大腿ヘルニアの割合が男性より高いとされていて、余計に分かりにくくなります。婦人科で卵巣や子宮を調べて異常が無ければ、そのあと外科へ回ることになります。最初から外科で構いません。
足の付け根から続いてふくらんでいて押すと戻るなら、外科です。外側から出るタイプの鼠径ヘルニアは鼠径管を通って陰嚢まで下りてくることがあります。陰嚢だけがふくらんでいて押しても引っ込まないなら、陰嚢水腫や精索水腫の可能性があるので泌尿器科でよいです。精巣が急に強く痛む、腫れて熱をもつときは、ためらわず泌尿器科か救急へ。
立った姿勢やおなかに力を入れた姿勢で診ると、押せば戻るふくらみとして触れることがほとんどです。日本ヘルニア学会のガイドラインも、その場合にひととおりの画像検査を行うことは推奨していません。ふくらみがはっきりしないときや、痛みや違和感だけのときは、立ったまま行う超音波検査を加えます。
かかり直しではありません。泌尿器科、整形外科、婦人科、皮膚科のいずれからでも、どこかで外科につながります。そこで撮った画像や聞き取った経過は、そのまま使わせていただきます。受診のときに検査結果や紹介状をお持ちください。
そのような資格は日本に存在しません。日本ヘルニア学会のガイドラインも、専門施設や専門医の定義は定まっていないのが現状だとしています。どれくらいの経験を積めば熟練と言えるのかについても、はっきりした基準は示されていません。ですので、施設を選ぶ手がかりとしては使いにくいのが実際のところです。学会名の付いていない表示を見かけたら、認定元を確かめてみてください。
まとめ

迷ったら外科か消化器外科へ。男性でも女性でも、行き先が変わることはありません。
泌尿器科・整形外科・婦人科を先に受診される方はとても多いです。遠回りにはなりますが、そこでの検査が無駄になるわけではありません。そこで受けた検査の結果や紹介状をお持ちのうえ、そのまま外科へお越しください。
急ぐのは、硬くなって押しても戻らず、強い痛みや吐き気があるとき。その日のうちに受診してください。立つと出て横になると消える段階なら急ぎではありませんが、自然に閉じることもありません。
診察に持ってきていただきたいのは、ふくらみが出ているときの写真。診察の時間帯によっては引っ込んでしまっていることがあるので、これがいちばん助かります。
そして「ヘルニア専門医」という資格は、日本にありません。専門医にも専門施設にも確たる定義がなされていないのが現状だと、ガイドライン自身がはっきり書いています。学会名の付いていない「専門医」表示は、認定元を確かめてみてください。
症状そのものの話は脱腸の症状から治療までの流れにまとめてあります。当院は土日も開けていますので、平日に時間が取れない方もお越しいただけます。