女性の鼠径部の痛みは鼠径ヘルニア(脱腸)?症状が出にくい理由と見分け方を専門医が解説
婦人科で診てもらったけれど、異常は無いと言われた。それでも鼠径部の痛みやしこりが気になって、外科を探しはじめた。女性の方からは、こういう順番でのご相談をよくいただきます。
鼠径ヘルニア(脱腸)の患者さんは男性が多いものの、女性にも起こります。数が少ないうえに、女性では見つけにくい型が混じるのが厄介なところで、鼠径部のすぐ下に出る大腿ヘルニアの割合が男性より高く、外からはほとんど膨らみが見えない型もあります。痛みやしこりの相談から入って、診察でようやくヘルニアに行き着くことが多い病気です。
この記事で分かること
- 女性の鼠径部の痛みで、まず確かめる3つのこと
- 片方だけ痛むときに考えること
- しこりが触れたときの、女性に多い病気
- 妊娠中・産後に考えること
- 女性は大腿ヘルニアの割合が高い、という話
- 受診する科と、手術のあとの痛みについて
目次
1. 女性の鼠径部が痛いとき、まず確かめること
チクチクする、重だるい、ときどきズキッとくる。外来では痛みの表現をいろいろ伺いますが、言葉の違いから病名を絞り込むのは、正直なところ難しいです。診察で確かめているのはもっと素っ気ない3点で、膨らみの有無、押したときの痛み、脚を動かしたときの痛みです。

立つと膨らみが出るなら鼠径ヘルニアを、押して痛む豆粒ほどのしこりならリンパ節の腫れを、脚を動かしたときだけ痛むなら筋肉や腱を、まず頭に置きます。膨らみも無いのに痛みだけが続くケースは、鼠径部の痛みを3つの質問で分ける見分け方で順に取り上げています。
1-1. 片方だけ痛むのは、めずらしくありません
右だけ、あるいは左だけが痛むというのは、ごく普通のことです。鼠径ヘルニアはもともと片側に出ることが多く、リンパ節が腫れる場合も、腫れるのは足の傷や感染といった原因がある側。両側に出る方もいますが、左右のどちらかで疑う病気が入れ替わることはありません。
「足の付け根が痛い」とおっしゃる方も、指している場所はたいてい同じです。その言い方で調べてきた方には、足の付け根の痛みで男女別に考えられる病気のほうが入りやすいかもしれません。

1-2. 癌ではないか、と心配になったとき
悪いものだったらどうしよう、と思いながら来られる方は多いです。目印にしていただきたいのは痛くない・硬い・だんだん大きくなるの組み合わせで、3つがそろったしこりは、リンパ節の腫れであっても原因まで調べます。
もっとも、3つそろえば悪性と決まるわけではありません。粉瘤や脂肪腫のように、痛みもなく少しずつ育っていく良性のできものもあります。しこりの候補は鼠径部のしこりで考えられる7つの病気で一つずつ説明しています。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、ネットで調べるうちに怖い病名ばかり目に入って、受診を先延ばしにしていた、という方がいらっしゃいます。調べるほど不安がふくらむのは無理もありません。当てはまるもの、当てはまらないものは、診察で一つずつ外していけます。
2. 女性のふくらみは、見た目に出にくい
女性で膨らみが分かりにくいのは、膨らみの小さい大腿ヘルニア(5章)や、外からほとんど見えずに痛みで気づく閉鎖孔ヘルニアが混じるからでもあります。鏡で見ても分からず、診察で初めて指摘されることも珍しくありません。

2-1. 立つと出て、横になると引っ込む
お腹の壁に弱いところがあると、立ったりお腹に力が入ったりしたときに、腸や脂肪がそこから皮膚の下へ押し出されます。横になれば中へ戻り、指で押しても戻る。この出入りがはっきりしていれば診察だけで診断がつくので、画像検査は必須ではない、とガイドラインは整理しています(CQ3-1)。
自宅での確かめ方は鼠径ヘルニアの初期症状とセルフチェック5項目にまとめています。
2-2. 膨らみがはっきりしないときの検査
困るのは、診察室では引っ込んでいて、夜になると出てくるような場合です。痛みや違和感だけで膨らみが見えないとき、体型のせいで膨らみが分かりにくいときも同じで、こうした場面では立った姿勢でお腹に力を入れながら当てる超音波検査が第一選択とされています(CQ3-1)。横になると腸が戻ってしまうので、当院でも立っていただいたまま確かめます。

参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ3-1
3. しこりが触れたとき、女性で候補に入るもの
男女共通の候補は、リンパ節の腫れ、粉瘤、脂肪腫。これとは別に、子宮円索の通り道にできるものと、子宮内膜症に関係するものが、女性では候補に入ってきます。

3-1. Nuck管水腫(ヌックかんすいしゅ)
おなかの中を覆う膜(腹膜)の一部は、胎児のころに子宮円索に沿って鼠径管へ入り込みます。これが生まれたあとも袋として残り、中に液体がたまったものがNuck管水腫です。20〜40代の女性に多く、やわらかいしこりとして触れます。
出る場所が鼠径ヘルニアとほとんど同じなので、見た目では区別がつきにくいものの、横になっても大きさがあまり変わらないところが違います。中身が液体かどうかは超音波で分かるので、その場で見分けがつきます。
3-2. 子宮内膜症が関係することもある
月経のたびに鼠径部が痛む、しこりが腫れる。そういう経過なら、子宮内膜症も候補に入ります。ガイドラインが鼠径部の痛みの鑑別に挙げている病気のひとつで(CQ3-1)、周期との関係がはっきりしていれば、婦人科での診察を先にすることもあります。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、痛んだ日をスマートフォンに控えて見せてくださる方がいらっしゃいます。月経の周期と重なっているかどうかが一目で分かるので、婦人科と外科のどちらを先にするかで、話が行ったり来たりしません。
4. 妊娠中と産後の鼠径部
妊娠中に鼠径部が痛む、しこりが触れるという場合、鼠径ヘルニアのほかに子宮円靭帯の静脈瘤が候補に入ります。子宮を支える靭帯に沿った静脈がふくらんだもので、血流を映すカラーデュプレックス法の超音波を当てれば見分けがつく、とガイドラインにあります(CQ3-1)。
妊娠中であることは、診察の最初に伝えてください。考える候補の並びが変わります。
産後になってから片方の鼠径部の痛みに気づいた、というご相談も受けます。婦人科では異常なしと言われていて、外科で診ると小さな膨らみが見つかる。そういう経過をたどる方もいらっしゃいます。婦人科と外科では見ている候補が違うので、片方で問題ないと言われたあとでも、もう片方を受診する意味はあります。

5. 女性は大腿ヘルニアの割合が高い
太ももの付け根寄り、鼠径部のすぐ下に出るのが大腿ヘルニアです。鼠径ヘルニアとは出口が数センチしか離れておらず、見た目もよく似ています。女性ではこの型の割合が男性より高いとされていて、どちらなのかを外から決めきれないことがあります。
大腿ヘルニアの出方
- 太ももの付け根に、小さなふくらみが出る
- 下着のゴムが当たる線のすぐ下あたりで、立っているときだけ分かる程度のこともある
- 痛みは無いことが多く、健診や別の不調の診察で見つかる方もいる
- 鼠径ヘルニアより嵌頓(かんとん)を起こしやすいとされている

気をつけたいのは、手術のときです。2024年版が引用している欧州ヘルニア学会のガイドラインは、女性で鼠径部ヘルニアの再手術になった方のなかに、最初の手術で見落とされた大腿ヘルニアが含まれている可能性を指摘しています(CQ8-1)。この指摘から、併存するヘルニアも同時に確かめられる腹腔鏡手術が勧められています。
ちなみに「高齢で痩せ型、出産の多い女性に多い」という昔からの説明について、2024年版は支持する明確な根拠は無いとしています(CQ2-1)。大腿ヘルニアの出方や手術の考え方は、大腿ヘルニアと鼠径ヘルニアの違いに譲ります。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ2-1・CQ8-1
6. 女性は何科へ行けばよいか
鼠径ヘルニアを診るのは外科か消化器外科です。婦人科と迷われる方が多いのですが、行き先は女性でも男性でも変わりません。
| こんなとき | 行き先 |
|---|---|
| 立つと膨らみ、横になると引っ込む | 外科・消化器外科 |
| 押すと痛い豆のようなしこりがある | 内科・皮膚科 |
| 月経の周期で痛み方が変わる | 婦人科 |
| 脚を動かすと痛み、休むと軽くなる | 整形外科 |
| 押しても戻らず、痛みが強い・吐き気がある | その日のうちに外科か救急へ |
婦人科を先に受診しても、間違いではありません。卵巣や子宮に異常が見つからなければ、そこから外科へ紹介される、という順番になるだけです。月経の周期と痛みが重なっているなら婦人科から、そうでなければはじめから外科へ。分け方はそれで足ります。
男女それぞれの受診先は鼠径ヘルニアは何科を受診するかで詳しく扱っています。押しても戻らず痛みが強いときは嵌頓(かんとん)の心配があるので、日を改めずに受診してください。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「どんな診察をされるのか分からなくて、予約をためらっていた」とおっしゃる女性がいらっしゃいます。診るのは鼠径部で、立った姿勢と、お腹に力を入れた姿勢で膨らみを確かめます。はっきりしないときに超音波を足す、というくらいのものです。
7. 手術のあとに残る痛みの話
手術のあとに痛みが長く残るかどうか。その危険因子のひとつとして、ガイドラインは女性であることを挙げています(CQ17-1)。一方で、この項目はエビデンスの確実性が「非常に低い」とされていて、はっきりした結論が出ているわけではありません。

術後しばらくたっても痛みが引かないときは、我慢して様子を見続けずに、早めに相談してください。
回復までの経過は鼠径ヘルニアの手術後の痛みと回復期間、手術の方法は腹腔鏡による日帰り手術のページで説明しています。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ17-1
8. 当院で受ける場合
当院は鼠径ヘルニアの日帰り手術を専門にしているクリニックで、大阪駅前第2ビルの1階にあります。土日も診療していて、毎月の手術件数は最新の手術実績で公表しています。はじめて来られるときの流れと持ち物は初診と検査の流れをご覧ください。
大人の鼠径ヘルニアは自然に治ることがなく、根本から治すには手術が必要です。とはいえ、診察を受けたその日に手術を決める必要はありません。まずは、何が起きているのかを確かめるところから。
診療時間 月・水〜土は21時まで、火曜と日・祝は17時まで診療しています(17時以降と火曜・日祝は要予約)。電話・Web予約・LINEでのご予約・ご相談は、24時間365日受け付けています。
なります。頻度は男性のほうが高いものの、女性にも起こります。女性では鼠径部のすぐ下に出る大腿ヘルニアの割合が男性より高く、膨らみが目立たない型も混じるため、見つけにくいことがあります。
可能性はあります。膨らみがはっきりしない、痛みや違和感だけがある、診察のときには出ていない。こうした場合は、立った姿勢でお腹に力を入れながら行う超音波検査が第一選択とされています(CQ3-1)。
片方だけというのは、よくあることです。鼠径ヘルニアはもともと片側に出ることが多く、リンパ節が腫れる場合も、腫れるのは足の傷や感染がある側です。右か左かで、考える病気が変わることはありません。
痛みがなく、硬く、少しずつ大きくなっている。この3つがそろうしこりは、原因を調べる対象になります。とはいえ、そろっていても悪性とは限らず、粉瘤や脂肪腫も痛みのないまま大きくなります。気になる点があれば、診察で確かめるのが近道です。
鼠径ヘルニアのほかに、妊娠中は子宮円靭帯の静脈瘤も候補になります。血流を映すカラーデュプレックス法の超音波で見分けがつく、とガイドラインに記載があります(CQ3-1)。受診の際は、妊娠中であることを最初に伝えてください。
外科か消化器外科です。婦人科を先に受診しても構いませんが、卵巣や子宮に異常が無ければ、そこから外科へ紹介される流れになります。月経の周期と痛みが重なっている場合は、婦人科から始めてください。
ガイドラインは、術後に長く続く痛みの危険因子のひとつとして女性を挙げています(CQ17-1)。一方で、この項目のエビデンスの確実性は「非常に低い」とされ、確かな結論ではありません。痛みが長引くときは、我慢せずにご相談ください。
まとめ
女性の鼠径ヘルニアは、数が少ないうえに見つけにくく、痛みやしこりの相談から行き着くことの多い病気です。
この記事の要点
- 痛みは「膨らみ・押す・動かす」の3点で振り分ける
- 片方だけ痛むのは普通のこと。右か左かで病気は変わらない
- しこりでは Nuck管水腫と子宮内膜症が女性の候補に入る
- 妊娠中は子宮円靭帯の静脈瘤も候補。妊娠中であることを最初に伝える
- 女性は大腿ヘルニアの割合が高く、手術では併存するヘルニアも確かめる
- 迷ったら外科か消化器外科。押しても戻らないときは待たない
脱腸の症状から治療までの流れは、別のページで順を追って説明しています。鼠径部の痛みやしこりが続いているなら、軽いうちに一度診せてください。