大腿ヘルニアとは?鼠径ヘルニア(脱腸)との違いと、なぜ女性に多いのかを専門医が解説
足の付け根にふくらみが出る病気のなかで、大腿ヘルニアは鼠径ヘルニアより少し下、太ももの付け根に近いところに出ます。どちらも鼠径ヘルニア(脱腸)と同じ鼠径部のヘルニアで、鼠径部ヘルニア全体に占める割合は2〜8%とされています。
数としては多くない病気です。それでも早めの手術がすすめられる理由は、はっきりしています。飛び出したものがはまり込んで戻らなくなる嵌頓を、起こしやすいから。
痩せた高齢の女性に多い。長くそう言われてきた病気です。ただ、なぜ多いのかとなると、教科書に書かれてきた説明を裏づける根拠が、いまも見つかっていません。

この記事で分かること
- 大腿ヘルニアが出る場所と、鼠径ヘルニアとの違い
- 女性に多いと言われてきた理由と、まだ分かっていないこと
- 気づきにくく、見逃されやすい理由
- 早めの手術がすすめられる理由(嵌頓のリスク)
- 手術の方法。どちらが優れているとは言い切れないこと
- 当院で日帰り手術を受ける場合の流れと費用
目次
1. 大腿ヘルニアとは。鼠径ヘルニアとの違い
おなかの壁には、もともと構造的に弱い場所がいくつかあって、そこから腹膜や腸、脂肪が押し出されてくるのがヘルニアです。押し出される出口が大腿輪という穴のとき、大腿ヘルニアと呼びます。出口がどこかで名前が変わるだけ、と聞くと少しややこしく感じるかもしれません。ただ、外から見える位置も、起こりやすいことも違ってきます。
| 鼠径ヘルニア | 大腿ヘルニア | |
|---|---|---|
| 出る場所 | 鼠径靱帯の上側 | 鼠径靱帯の下側(太ももに近い) |
| 多いのは | 男性 | 女性 |
| ふくらみ | 比較的はっきり出る | 小さく、気づきにくいことがある |
| 嵌頓 | 起こることがある | 起こりやすい |

ご自身で区別をつけるのは、正直なところ難しいと思います。診察でも、体型や出っぱりの位置によっては迷うことがあって、どちらであるかを最終的に手術の場で確かめる、ということもあります。ちなみに、足の付け根のふくらみ全般は足の付け根の見た目の変化で扱っています。

関連記事:鼠径部の痛みは何が原因?膨らみがないのに痛いときの見分け方と類似疾患を専門医が解説
2. 女性に多い。ただし「なぜ」は分かっていない
痩せ型で高齢の、出産経験の多い女性に多い。大腿ヘルニアについては、教科書でも長くそう言われてきました。外来でも、ご自身で調べてから「あてはまります」とおっしゃる方がいらっしゃいます。
その説明として長く挙げられてきたのが、妊娠と出産をくり返すことで腹圧が上がり、大腿輪が押し広げられていくという考え方でした。ところが、日本ヘルニア学会の『鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024』は、この説を支持する明確な根拠は無いとしています。2015年版の記載も「高齢女性に多い」までで、理由には踏み込んでいません。
もっとも、多いという傾向そのものは以前から言われてきました。分かっていないのは理由のほう。この2つは分けて受け取っていただくのがよいと思います。当院でも、出産経験の有無だけで診断を決めるようなことはしていません。
女性の鼠径部のふくらみ全般については、女性の鼠径ヘルニア(脱腸)の症状と見分け方もあわせてご覧ください。


専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「でべそが病気だとは思っていなかった」とおっしゃる方がいらっしゃいます。子どものころからずっと付き合ってきた方ほど、そう感じられるようです。見た目が気になるかどうかとは別に、押すと引っ込んで力むと出てくるなら、おなかの壁に穴が開いている状態。触って確かめるだけの受診でも構いません。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ2-1
3. 見た目で気づきにくいのは、ふくらみが小さいから
出口である大腿輪は、もともと狭い穴。そこから出てくるぶん、ふくらみが小さく、立っているときだけ分かる程度のこともあります。見た目でいうと、太ももの付け根のあたりが少しだけ盛り上がっている、下着のゴムが当たる線のすぐ下に小さなふくらみがある、といった程度で、写真で見比べても鼠径ヘルニアとの区別はつきにくいと思います。鼠径ヘルニアのようにはっきりした膨らみにならないため、ご自身でも家族でも気づかないまま時間が過ぎることがあります。健診で指摘されて初めて知ったという方や、別の不調で受診した際に見つかったという方も、外来ではめずらしくありません。
こんな出方をします
- 太ももの付け根に、小さなふくらみがある
- 立ったり歩いたりすると出て、横になると引っ込む
- 足の付け根が重い、引っぱられる感じがする
- 痛みはないことが多い
痛みが無いまま何年も過ごされる方がいらっしゃいます。受診のきっかけをつかみにくい病気。だからこそ、気づいた時点で一度診ておく意味があると考えています。こうした「様子を見ているうちに何年も経った」というお話は、外来でもよく伺います。
4. 早めの手術がすすめられる理由
嵌頓とは、飛び出した腸などが穴にはまり込んで戻らなくなった状態。押しても引っ込みません。そのまま時間が経つと、はまり込んだ部分の血のめぐりが止まってしまいます。そうなると腸が壊死して、緊急の手術になります。予定して受ける手術とは、体への負担も入院の要否もまったく別物です。
鼠径ヘルニアと比べて、大腿ヘルニアは嵌頓に移行しやすいとされています。出口が狭いうえに、周囲を硬い組織で囲まれているためです。腸がいったん入り込むと、自然に戻りにくい構造になっています。ガイドライン2024も、症状が無い場合を含めて手術を検討する立場をとっています。
ただし、その記述には但し書きが付いています。経過観察と手術を比べた質の高い比較試験は無く、どちらかを強く推奨できる科学的根拠は乏しいというのがガイドラインの立場です。それでも手術が選ばれてきたのは、経過を見た場合に重い合併症が起こりうるため。

関連記事:鼠径ヘルニアを放置すると危険?嵌頓のリスクと治療法を専門医が解説
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ6-1
5. 手術の方法。どちらが優れているとは言い切れない
手術の方法は大きく2つに分かれます。足の付け根を切開して行う方法と、おなかに小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術です。
ガイドライン2024は、この2つについて「治療成績に明らかな差を認めない。どちらの方法が推奨されるかの結論は導けない」としています。推奨の方向は示されていません。エビデンスの確実性についても、4段階のうち最も低い「非常に低い」と評価されています。
あっさりした結論に見えるかもしれませんが、背景があります。もともと数が少ない病気で、術式を比べた比較試験そのものが行われていません。手術を受けた方の登録データをもとにした検討はあるものの、そこからも明確な差は出ていないのが現状です。
当院が腹腔鏡を用いているのは、おなかの中から鼠径部全体を見渡すことができて、大腿ヘルニアかどうかをその場で確かめながら進められるからです。反対側に隠れたヘルニアがあった場合も、同じ機会に見つけられます。どちらの術式が優れているという話ではなく、確かめながら進められるという理由です。

参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ8-1
6. 当院で受ける場合
何科を受診すればよいか、というご質問もいただきます。大腿ヘルニアを扱うのは外科です。足の付け根のふくらみというと整形外科や皮膚科を思い浮かべる方もいらっしゃいますが、ヘルニアの手術を行うのは外科なので、迷われたときは外科か消化器外科にご相談ください。当院では日帰りの手術として行っています。当日の流れや持ち物は鼠径ヘルニア・脱腸の日帰り手術と費用についてに書いてありますので、受診の前にひととおり目を通していただけます。費用の目安は次のページです。
関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)の手術費用はいくら?3割負担の目安と高額療養費を専門医が解説
手術のあとの過ごし方や仕事に戻る時期については、鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術後の痛みと回復期間を専門医が解説をご覧ください。
7. すぐにご相談いただきたいとき
次の状態にあてはまるときは、その日のうちに受診をお願いします。
その日のうちに受診していただきたい状態
- ふくらみが押しても戻らない
- 強い痛みがある
- 吐き気や嘔吐をともなう
嵌頓が起きている可能性があります。時間が経つほど、できる手当ては限られてくるもの。判断に迷われたときこそ、まずお電話でご相談ください。
よくある質問
見分けられません。出る場所が数センチしか違わず、見た目も似ています。どちらであるかは診察と検査で判断し、手術中に確かめることもあります。足の付け根にふくらみがあれば、区別を気にせず一度ご相談ください。
起こります。割合としては女性に多いと言われていますが、男性に起こらない病気ではありません。性別で判断せず、ふくらみや違和感があれば診察を受けてください。
痛みが無くても手術を検討します。大腿ヘルニアは嵌頓に移行しやすいとされているためです。ただし、経過観察と手術を比べた質の高い比較試験は無く、どちらかを強く推奨できる根拠は乏しいというのがガイドラインの記載です。ご希望と状態をうかがったうえで決めていきます。
そうとは言えません。日本ヘルニア学会のガイドライン2024は、腹腔鏡手術と他の術式で治療成績に明らかな差を認めず、どちらが推奨されるかの結論は導けないとしています。当院が腹腔鏡を用いているのは、鼠径部を内側から確かめながら手術を進められるためです。
当院では日帰りで行っています。手術そのものの時間は状態によって変わります。当日の流れや持ち物は日帰り手術のページにまとめてありますので、あわせてご覧ください。
まとめ
鼠径靱帯より下、太ももに近いところに出るのが大腿ヘルニアです。鼠径部ヘルニア全体の2〜8%と数は少なく、ふくらみも小さいため気づかれにくい。
高齢で痩せた女性に多いと言われてきましたが、その理由についてはまだ根拠が確かめられていません。性別や体型で決めつけず、ふくらみがあれば一度診てもらう。いまのところ、それがいちばん確かな方法です。
早めの手術がすすめられるのは嵌頓を起こしやすいからで、術式についてはどちらが優れているという結論は出ていません。当院は、手術中に確かめながら進められる腹腔鏡を用いています。
ふくらみ全般については鼠径ヘルニア(脱腸)の症状から治療までをご覧ください。土日も診療していますので、平日に来られない方もご相談いただけます。