鼠径ヘルニア(脱腸)の初期症状は?見た目とセルフチェック5項目を専門医が解説
足の付け根に、やわらかいふくらみがある。立つと出て、横になると引っ込む。痛みは、あるような無いような。
その見た目と触った感じが、鼠径ヘルニア(脱腸)のいちばん早いサインです。押すと戻るやわらかいふくらみがあれば、診察室ではほぼその場で診断がつきます。
もっとも、ふくらみがはっきりする前の段階で来られる方は、正直なところ多くありません。つっぱる、重だるい、夕方だけ出る。気のせいと片づけられやすいサインが、その手前にいくつかあります。
この記事で分かること
- ふくらみの見た目と、押したときの手ざわり
- 自分で確かめられるセルフチェック5項目
- ふくらみが出る前に感じる、つっぱりや重だるさ
- トイレが近い、尿が出にくいという気づき方
- その日のうちに受診すべきサイン
- 気づいたあと、どこで何をするのか
目次
1. 最初に気づくのは、たいてい見た目
鏡の前でズボンを下ろしたとき、左右で形が違うことに気づいた。そういう入りかたを、外来ではいちばん多くお聞きします。
1-1. 立つと出て、横になると消える
いちばん分かりやすい特徴が、この出たり引っ込んだりするところです。立っているときや歩いているときに目立ち、横になると自然に戻っていく。咳やくしゃみ、重い物を持ち上げるときには、はっきり大きくなります。

おなかの壁の弱いところから腹膜が袋状に押し出され、その袋に腸が入り込むと、外から見て「ふくらんだ」と分かるようになります。この袋のことを、医学ではヘルニア嚢と呼んでいます。足の付け根のしこりが自然に治るのかを気にされる方も多いのですが、この袋が自分で閉じることはありません。
1-2. 押すと戻る、という手ざわり
指で軽く押すとふくらみが消え、手を離すとまた出てくる。この出入りする性質を用手還納性と言って、中身が腹腔内へ戻せる状態であることを示しています。

日本ヘルニア学会の診療ガイドラインは、押すと戻るふくらみがある場合、ひととおりの画像検査は推奨しないとしています(CQ3-1)。診察室で確かめられる病気だ、ということになります
1-3. 見えにくい体型もあります
皮下脂肪が厚い方では、外から見てもふくらみが分かりにくい。下着のゴムが当たる線に沿ったVラインの小さなしこりとしてしか気づかれないこともあります。活動量が少ない方も、腹圧がかかる場面が少ないぶん出にくくなります。見た目で分からないことは、無いことの証明にはなりません。
2. セルフチェック。5つの項目
ご自宅で確かめられるのは、ここまで。
2-1. 鏡の前で、立ったまま
足の付け根のセルフチェック(立った姿勢で)
- □ 立つと足の付け根にやわらかいふくらみが出る
- □ 指で押すと引っ込み、手を離すとまた出てくる
- □ 咳・くしゃみ・重い物を持つと、大きくなる
- □ 立ち上がるとき、つっぱるような感じがある
- □ 長く立っていた日の夕方に、鈍く痛む

上の2つがそろえば、この病気である可能性はかなり高く、鼠径部のしこりで考えられるほかの病気とも見分けがつきます。
2-2. 当てはまらなくても、否定はできない
ひとつしか当てはまらないという方もいらっしゃいますが、それでも一度は調べてみる価値があります。
ふくらみがはっきりせず痛みだけがある場合や、診察のときには引っ込んでしまう場合について、ガイドラインは立った姿勢でおなかに力を入れながら行う超音波検査を第一選択に挙げています(CQ3-1)。膨らみが無いのに鼠径部が痛むときの原因は、ヘルニア以外にもいくつかあります。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、診察室に入った途端に「いま引っ込んでしまいました」とおっしゃる方がよくいらっしゃいます。そういうときのために、ふくらみが出ているときの写真をスマートフォンで撮ってきていただけると助かります。立った姿勢と力を入れた姿勢の2枚があれば、それだけで話がだいぶ早くなります。
3. ふくらみが出る前のサイン
先に変わるのは、感覚のほうです。
3-1. つっぱる、重だるい
立ち上がる瞬間に引きつれる。長時間の立ち仕事や重い物を扱った日の夕方に鈍く痛み、歩いていると足の付け根がつっぱる。どれも、ふくらみがまだ小さい時期に出やすい感覚だと思っていただければ十分。ふくらみが出ないまま痛みだけが続くときに考える病気は、男性の足の付け根の痛みのほうにまとめてあります。

3-2. 痛む場所には、傾向があります
ふくらみとして触れるようになる前に、恥骨の斜め上の外側、1センチほどずれたあたりが痛むことがあります。袋が通り道を押し広げていく過程で、筋膜がわずかに裂けるためです。

この段階ではまだふくらみとして感じられないので、「筋を違えた」と思って整形外科へ行かれる方が出てきます。外側から出るタイプの初期の出かたは、別のページに詳しくまとめました。
違和感だけの段階で受診される方は、正直なところ多くありません。気のせいかもしれないと考えるのは自然なことですが、進む前のほうが、手術の選択肢は広く取れます。
4. トイレが近い、尿が出にくい
尿の出かたの変化から気づかれる方が、思いのほかいらっしゃいます。
4-1. 膀胱が引き込まれることがある
おなかの内側から出るタイプでは、すぐ近くにある膀胱が袋のほうへ引き込まれることがあります。そうなると残尿感、頻尿、尿が出しにくいといった変化が出てきます。

足の付け根のふくらみと尿の出かたが同じ病気から来ているとは、ふつう思いません。片方だけを相談されて、話が進んでから両方つながる。外来ではよくある流れ。
関連記事:内鼠径ヘルニアとは?外鼠径ヘルニアとの違いと、なりやすい人を専門医が解説
4-2. 陰嚢の変化、おなかの張り
男性の場合は、片側の陰嚢が痛むという訴えでいらっしゃることもあります。外側から出るタイプが、通り道をたどって陰嚢のほうまで下りてくるためです。
ふくらみ以外で相談されることが多い症状
- 片側の陰嚢が痛む(男性)
- 残尿感、頻尿、尿が出しにくい
- 腸が動く感じが、前より分かりやすい
- 便意はあるのに出しきれない(しぶり腹)
最後のしぶり腹は少し性質が違い、腸の通りが悪くなっているときにも出る症状なので、続くようなら早めにご相談ください。男性・女性それぞれの受診先も整理してあります。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、泌尿器科に通院中の方が「ついでに」と足の付け根を見せてくださることがあります。そこで見つかるケースが実際にありますので、前立腺の治療を受けている方や排尿の症状で通院している方は、一度ご自身で足の付け根を触ってみてください。立った姿勢で軽く咳をしながら触ってみると、それだけで分かることが実際にあります。
5. ここから先は、急ぎます
ここまでは、待てる話でした。次に並べる4つが出たら、待てません。
出たり戻ったりしていたふくらみが、ある日戻らなくなる。押しても動かず硬くなって痛みが強まってくる、この状態が嵌頓(かんとん)の始まりです。

その日のうちに受診していただきたいサイン
- ふくらみが押しても戻らない
- 硬くなっていて、痛みが強い
- 吐き気がある、実際に吐いた
- おなか全体が張って、便やガスが出ない

いつもは戻るのに、その日だけ戻らない。冷や汗をかきながら押し込んで、何分かしてようやく戻った。そういう経験をされた方は、次はもっと悪い形で来ると考えておいたほうがいいです。
関連記事:鼠径ヘルニアを放置すると危険?嵌頓のリスクと治療法を専門医が解説
6. 気づいたあと、どうするか
順番さえ決めておけば、あとは流れで進んでいきます。
気づいてから、手術を決めるまで
- 外科または消化器外科を受診する
- 立った姿勢と力を入れた姿勢で診察。多くはその場で診断がつく
- はっきりしないときだけ、立ったまま超音波を足す
- 手術の方法と費用を聞いてから、日程を決める
6-1. 受診先は外科か消化器外科
扱う相手がおなかの壁とその中身なので、担当は外科になります。消化器外科は外科のなかの分野で、どちらにかかっても守備範囲の内側に入ります。
6-2. 診察で実際に行うこと
診察では、立った姿勢と、おなかに力を入れていただいた姿勢の両方で確かめます。押せば戻るふくらみがはっきりしていれば、たいていはその場で診断がつくので、画像検査を足すのははっきりしないときだけです。

6-3. 手術を決める前に見ておくこと
隙間が自然に塞がることはなく、根治の手段は手術だけです。とはいえ、初診のその日に決めていただく必要はありません。腹腔鏡手術で実際に何をしているのかと、保険が使えて自己負担がいくらになるかを見てから決めていただければ十分です。
市販の器具で押さえる方法を試してから来られる方も、少なくありません。そちらの是非は自分で治せるのかどうかのページで正面から答えています。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「何年も前から出ているのですが、今さらですよね」と言われることがあります。今さらということはありません。長く出している方ほど押しても戻りにくくなっている傾向はありますが、それも含めて一度診てみないことには分かりません。何年放っていたかより、いま押して戻るかどうか。そこを外来で一緒に確かめさせてください。
よくある質問
立ったときに足の付け根がやわらかくふくらみ、横になると消えることです。指で押すと引っ込み、手を離すとまた出てきます。咳やくしゃみ、重い物を持つ動作で大きくなるのも特徴です。ふくらみがはっきりする前の段階では、立ち上がるときのつっぱりや、長く立っていた日の夕方の重だるさとして感じられます。
立った姿勢で鏡を見ながら、足の付け根を左右見比べてください。軽く咳をすると出やすくなります。ふくらみに触れたら、指で押して引っ込むかどうかを確かめます。押すと戻り、手を離すとまた出る。この2つがそろえば、可能性はかなり高いと考えられます。横になった姿勢でも確かめておくと、診察のときに話が早くなります。
ふくらみそのものが痛むこともありますが、ふくらみとして触れるようになる前は、恥骨の斜め上の外側、1センチほどずれたあたりが痛むことがあります。袋が通り道を押し広げる過程で筋膜がわずかに裂けるためです。長く立っていた日や、重い物を扱った日の夕方に出やすい鈍い痛みです。
同じ病気です。医学の正式名称が鼠径ヘルニアで、昔から一般に使われてきた呼び名が脱腸です。呼び方が違うだけで、指している状態も治療法も変わりません。
その可能性はありますが、それだけでは決まりません。日本ヘルニア学会のガイドラインは、ふくらみがはっきりしない場合に、立った姿勢でおなかに力を入れながら行う超音波検査を第一選択に挙げています。鼠径部の痛みには、股関節や筋肉、そのほかの病気が原因のこともあります。
関係することがあります。おなかの内側から出るタイプでは、すぐ近くにある膀胱が袋のほうへ引き込まれることがあり、残尿感や頻尿、尿が出しにくいといった変化が出ます。泌尿器科に通院中に足の付け根のふくらみが見つかる方もいらっしゃいます。
手がかりにはなりますが、判断はできません。皮下脂肪が厚い方では外から見て分かりにくく、見えないことが無いことの証明にはならないためです。一方で、ふくらみが出ているときの写真は診察でとても役に立ちます。診察室では引っ込んでしまう方が多いので、立った姿勢と力を入れた姿勢の2枚を撮ってお持ちください。
まとめ
立つと出て、横になると消える。押すと戻る。この2つがそろったら、それがほぼ答えだと考えていただいて差し支えありません。
- 見た目:立つと出て、横になると消えるやわらかいふくらみ。押すと戻る
- 出る前:つっぱる、重だるい、夕方だけ出る。恥骨の斜め上外側が痛むことも
- 別の入口:残尿感・頻尿・尿が出しにくい。片側の陰嚢の痛み
- 急ぐとき:戻らない・硬い・痛みが強い・吐き気。その日のうちに受診
- 受診先:外科または消化器外科。ふくらみが出ているときの写真があると早い

気づいたその日に手術を決めなければいけない、ということはありません。ただ、戻らなくなってからでは選べる手だてが減ります。押して戻るうちに一度見せていただくのが、いちばん穏やかな進み方です。
全体像のほうは脱腸の症状から治療までの流れにまとめてあります。当院は大阪駅前第2ビル1階にあり、梅田駅から徒歩5分です。月・水〜土は21時まで、火曜と日・祝は17時まで診療しています(17時以降と火曜・日祝は要予約)。電話・Web予約・LINEでのご予約・ご相談は、24時間365日受け付けています。