高齢者の鼠径ヘルニア(脱腸)手術は受けるべき?日帰りか入院か、手術しない選択を専門医が解説
「この年で手術を受けて大丈夫だろうか」「受けずに様子を見ていてもいいのか」。鼠径ヘルニア(脱腸)が見つかった70代・80代の方や、そのご家族から、外来でよく聞かれることです。
答えは、年齢だけでは決まりません。症状が無い、またはごく軽いうちは、説明を受けたうえで経過を見る選択も認められています。手術を選ぶなら、持病と全身の状態、それに帰宅したあとに見守る方がいるかどうかで、日帰りか入院かを決めます。
当院では、80〜85歳の方にはご家族か同居の方と一緒に来ていただいています。86歳以上の方の手術はお受けしていませんが、診察と診断は行い、必要なときは病院をご紹介します。
この記事で分かること
- 高齢の方の脱腸と、手術を受けるかどうかの考え方
- 80歳以上の手術の方法(切開法と腹腔鏡)
- 手術しないで様子を見る選択と、放置したときの危険
- 日帰りか入院か、当院の年齢の目安
- 手術の日と翌日、初めて受診するときに気をつけること
目次
1. 年齢だけで、手術を受けるかどうかは決まらない
1-1. 高齢になるほど増える病気で、自然には治らない
鼠径ヘルニアは、年を重ねるほど増えていく病気です。男性であること、痩せていることと並んで、高齢であることは代表的な危険因子に挙げられていて(CQ1-1)、お腹の壁をつくる筋膜が年とともにゆるんでくることが、その背景にあります。
一度できた脱腸が、自然に治ることはありません(CQ5-1)。治すには手術しかない。そこが出発点で、受けるかどうか、受けるならいつにするかは、体の状態と暮らしに合わせて決めていきます。
1-2. その膨らみが脱腸かどうかを、先に確かめる
足の付け根の膨らみが、脱腸ではないこともあります。足の付け根のしこりには、リンパ節の腫れや粉瘤、脂肪腫といった別のものもあるからです。
いちばんの手がかりは、立つと膨らんで、寝ると引っ込むかどうか。この動きがあれば、脱腸の見込みが高くなります。受診の前に、ご本人とご家族で、立ったときと横になったときの膨らみを見比べておくと、診察で話が早く進みます。

1-3. 80歳以上でも、方法は切開法・腹腔鏡のどちらでもよい
方法は2つあります。足の付け根を数cm切ってメッシュを当てる切開法と、お腹の内側からメッシュを敷く腹腔鏡手術です。80歳以上の方でも、どちらを選んでも差し支えないとされています(CQ9-1)。

| 切開法 | 腹腔鏡手術 | |
|---|---|---|
| 入り方 | 足の付け根を数cm切る | お腹に小さな穴を3か所 |
| 麻酔 | 局所麻酔でもできる | 全身麻酔 |
| 向いている方 | 全身麻酔ができない方、お腹の手術で癒着が強い方 | 腹腔鏡に十分慣れた外科医が行う場合 |
高齢の方で腹腔鏡がためらわれるのは、全身麻酔で行ううえ、場合によっては尿の管(膀胱カテーテル)も要るからです(CQ9-1)。切開法の局所麻酔は、ガイドラインでも勧められている方法(CQ15-1)。もっとも、どちらにも得手不得手があって、執刀する医師の慣れも含めて選ぶことになります。
当院の手術は、全身麻酔で行う腹腔鏡(TAPP法)です。
2. 手術しないで、様子を見るという選択
2-1. 症状が無ければ、急がなくてよいこともある
痛みも違和感も、ほとんど無い。そういう脱腸なら、すぐに手術しなければならないわけではありません。十分な説明を受けたうえでなら、手術と経過観察のどちらを選ぶことも認められています(CQ5-1)。ただ、経過を見ていた方のうち少なくない割合が、数年のうちに結局は手術を受けています。膨らみは放っておくと少しずつ大きくなることがあり、痛みが出てくる方もいる。そうなったら、そこで考え直せばよいのです。

手術を待つあいだ、ヘルニアバンドで押さえている方もいます。バンドは、外に出てきたものを皮膚の上から押さえているだけで、穴をふさいでいるわけではありません。重い心臓や肺の病気で手術の危険が高い方では、症状をやわらげる目的で使うこともあります。
関連記事:脱腸(鼠径ヘルニア)は自分で治せる?自然に治らない理由と、手術しない選択を専門医が解説
2-2. 様子を見るあいだに、知っておいてほしいこと
様子を見るあいだにいちばん避けたいのは、腸が穴にはさまって戻らなくなる嵌頓(かんとん)です。こうなると緊急手術になり、予定して受ける手術より、緊急の手術のほうが合併症は増えます(CQ5-1)。

夜間や休日でも、救急外来へ
- □ 押しても膨らみが戻らず、硬い
- □ 膨らみの痛みが、どんどん強くなる
- □ 吐き気がする、吐いた
2-3. 高齢の女性で、気をつけたい型
女性では、足の付け根より少し下に出る大腿ヘルニアがあります。はまり込みやすい型で、症状が無くても手術が勧められます(CQ6-1)。
太ももの内側が痛む、しびれる。膨らみが見えないのに、そういう症状が続くときは、閉鎖孔ヘルニアのこともあります。痩せた高齢の女性に多い型です。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、ご家族から「本人は痛くないと言っているけれど、このままでいいのか」と聞かれることがあります。痛みが無ければ急がなくてよい場合もありますし、膨らみの型や状態によっては早めに手術を考えたほうがいい場合もある。どちらなのかは、診てみないと分かりません。いまの状態を、一度一緒に確かめましょう。
3. 日帰りか、入院か
3-1. 日帰りにできるかを決めるもの
同じ日に入院し、手術を受けて、帰宅する。これが日帰り手術で、鼠径ヘルニアの手術の多くはこの形で行われています(CQ11-1)。入院で行う病院なら何日かかるのか、日帰りと何が違うのか。鼠径ヘルニア手術の入院期間は、手術の方法と施設によって変わります。
一方で、重い持病のある方には、いつも日帰りを勧めるだけの根拠が、まだありません(CQ11-1)。日帰りにするかどうかは、次のことを一つずつ確かめて決めます。
日帰りにするか入院にするかで、確かめること
- □ 持病と、いまの全身の状態
- □ 麻酔の方法
- □ 帰宅したあと、見守る人がいるか
- □ 何かあったとき、すぐに連絡がとれるか
持病の具合や検査の結果によっては、入院できる病院をご紹介します。
3-2. 当院の年齢の目安

80〜85歳の方には、初めての診察のときと手術の当日の2回、ご家族か同居されている方と一緒に来ていただいています。86歳以上の方の手術は、当院ではお受けしていません。診察と診断はこれまでどおり行いますので、必要なときは総合病院などをご紹介します。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「親は一人で暮らしているけれど、日帰りで大丈夫か」と聞かれることがあります。日帰りにできるかどうかは、手術そのものより、帰ってからの一晩を誰と過ごすかで決まる部分があります。手術の日の夜にそばにいられる方を、先に決めておいてください。
4. 手術の日と翌日に、気をつけること
4-1. 帰る前に、確かめること
回復室で休んだあと、歩けること、水が飲めること、自分で尿が出せることを確かめて、それから帰宅です。
もともと尿が出にくい方は、とくに注意がいります。前立腺肥大症などがあると、麻酔と痛み止めの影響が重なって尿が出せなくなることがあるので、尿道カテーテルを使うかどうかを前もってご相談します。
関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)日帰り手術の流れと手術時間|当日のスケジュールと術後の過ごし方を専門医が解説
4-2. 家に帰ってから
痛みの山は、その日の夜から翌日にかけて。処方された痛み止めは、がまんせずに使ってください。手術後の痛みは、そこを越えると少しずつ引いていきます。
ふだん飲んでいる薬は、翌朝から再開できます。血をさらさらにする薬も同じです。手術の当日は車の運転ができないので、帰りはご家族の付き添いか、公共交通機関をお使いください。

関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)手術後の膨らみは漿液腫?再発との見分け方と、合併症・後遺症を専門医が解説
5. 費用と、受診するとき
5-1. 70歳以上の方の費用
外来の医療費には70歳以上の方だけに別の月ごとの上限があり、日帰り手術は外来の扱いなので、70歳以上の方の手術費用も、この上限をもとに計算します。
窓口での支払いを上限額までにするには、マイナ保険証か、限度額適用認定証が要ります。マイナ保険証なら、事前の申請はいりません。
5-2. 初めて受診するとき
何科に行けばいいか迷う方もいますが、鼠径ヘルニアを診る科は外科か消化器外科です。
診察では、鼠径部の膨らみが脱腸なのか、ほかの病気なのかを、超音波で確かめます。持病やふだん飲んでいる薬、これまでに受けた手術のことも伺います。

初めての診察に持ってきてほしいもの
- □ 保険証(マイナ保険証)
- □ お薬手帳
- □ 血をさらさらにする薬を飲んでいる方は、薬の名前が分かるもの

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、ご家族が「薬が多くて、本人も何を飲んでいるか分からない」とおっしゃることがあります。そういうときは、お薬手帳をそのままお持ちください。血をさらさらにする薬だけは、名前が分かるようにしておいていただけると助かります。
よくある質問
年齢だけでは決まりません。80歳以上でも、切開法と腹腔鏡のどちらを選んでもよいとされています(CQ9-1)。当院の目安は、80〜85歳ならご家族か同居の方と一緒の来院、86歳以上は診察と診断まで。手術が必要なときは、総合病院などをご紹介しています。
十分な説明を受けたうえで、経過を見る選択も認められています(CQ5-1)。ただ、経過を見ていた方の少なくない割合が、数年のうちに手術を受けています。膨らみが硬く戻らない、痛みが強くなる、吐き気があるときは、夜間や休日でも救急外来を受診してください。
多くの鼠径ヘルニアの手術は日帰りで行われています(CQ11-1)。ただし重い持病のある方は、状態によって入院できる病院をご紹介します。帰宅後に見守る方がいるかどうかも、日帰りにするかを決める材料です。
手術の当日は車の運転ができないため、帰りはご家族の付き添いか、公共交通機関をお願いしています。80〜85歳の方は、初めての診察と手術の当日に、ご家族か同居の方と一緒に来ていただいています。
当院の腹腔鏡手術は全身麻酔で行います。切開法は局所麻酔でも行える方法で、80歳以上の方ではどちらの方法を選んでもよいとされています(CQ9-1)。
まとめ
高齢の方の脱腸の手術は、年齢だけで決まるものではありません。症状と体の状態、暮らしに合わせて、手術するか、様子を見るか、日帰りか入院かを決めていきます。
おさらい
- 脱腸は自然には治らない。治すのは手術
- 症状が無い・ごく軽いなら、説明を受けて経過を見る選択もある
- 80歳以上でも、切開法と腹腔鏡のどちらを選んでもよい
- 当院は80〜85歳はご家族か同居の方と来院。86歳以上の手術は受けていない
- 膨らみが戻らない・強い痛み・吐き気は、夜間や休日でも救急外来へ
ご本人とご家族で相談するときは、脱腸の症状から治療までの流れを一緒に確かめておくと、話がまとまりやすくなります。
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