鼠径ヘルニア(脱腸)の手術方法を専門医が徹底解説【腹腔鏡・日帰り手術対応】

鼠径ヘルニア(脱腸)の手術方法について、どのような選択肢があり、どの方法が最適なのか知りたい方へ。当クリニックでは、鼠径ヘルニア専門医による日帰り腹腔鏡手術を中心とした治療を行っています。
本記事では、従来の鼠径部切開法から最新の腹腔鏡手術まで、手術方法の特徴や麻酔の工夫、ヘルニア袋処理方法の違いについて、専門医が執筆した医学的根拠に基づく内容を詳しくご紹介します。
この記事で分かること
- 鼠径ヘルニア手術方法の種類と特徴(専門医による詳細解説)
- 腹腔鏡手術が第一選択である医学的根拠
- 日帰り手術を可能にする麻酔技術の工夫
- ヘルニア袋処理方法(RS法・TS法)の最新研究結果
- 手術後の回復と生活復帰について
- 手術費用と保険適用の詳細
目次
鼠径ヘルニア手術方法の選択について専門医が詳しく解説
鼠径ヘルニア専門医からのメッセージ
鼠径ヘルニアの手術方法の選択は専門医の間でも議論のあるところです。
当クリニックでは、患者さま一人ひとりに最適な鼠径ヘルニアの治療を提供しています。
ここでは、鼠径ヘルニアの手術方法について、専門医の立場から詳しくご説明いたします。
鼠径ヘルニアとその治療の重要性
鼠径ヘルニアは、足の付け根部分(鼠径部)で腹部の臓器が脱出する状態を指します。
一般的に脱腸とも呼ばれるこの症状は、放置すると重大な合併症を引き起こす可能性があります。
特に危険なのが嵌頓と呼ばれる状態です。
嵌頓が発生すると緊急手術が必要となるため、症状が確認された段階での予防的な手術が推奨されています。
→鼠径ヘルニア嵌頓の危険性と対処法もご覧ください
日帰り手術のメリットと実際の流れ
当クリニックでは、患者さまの負担を最小限に抑えた日帰り手術を実施しています。
来院から帰宅までの滞在時間はわずか4時間程度です。
具体的な流れとしては、手術時間が1時間前後、その後1-1.5時間の休憩を経てご帰宅いただけます。
入院の必要がないため、ご自宅での快適な療養が可能です。
時間 | 内容 | 詳細 |
---|---|---|
来院 | 受付・術前準備 | 体調確認、着替え、点滴ライン確保 |
手術開始 | 麻酔・手術 | 手術時間1時間前後 |
術後 | 回復室で休憩 | 1-1.5時間の安静 |
帰宅 | 歩行確認後 | 総滞在時間4時間程度 |
鼠径ヘルニアの手術方法
従来の鼠径部切開法について
鼠径部切開法は、足の付け根を5-7cm切開して行う手術方法です。この方法には以下のような種類があります:

- リヒテンシュタイン法:国際ガイドラインでも推奨される標準的な手術方法です。腹筋の外側にメッシュを設置する術式です。手術時間が比較的短く、多くの実績がある方法です。
- クーゲル法:腹筋の裏側からメッシュを留置する手法です。切開位置が従来の方法より少し頭側になるのが特徴で、術後の回復が早いとされています。
- シュールダイス法:メッシュを使用せず患者さま自身の組織で修復する方法です。特に若年層の患者さまに適している場合があります。
腹腔鏡手術
腹腔鏡手術は、より低侵襲な手術方法として注目されています。
5-10mmほどの小さな創で行うため、術後の痛みが少なく、回復も早いのが特徴です。

- TAPP法:腹腔内からアプローチする方法で、両側の観察が可能という大きな利点があります。当クリニックでは、この手術方法を主に採用しています。
- TEP法:腹膜外腔からアプローチする方法ですが、症例によってはTAPP法への切り替えが必要となる場合があります。
当クリニックの鼠径ヘルニアに対する手術方法-TAPP法のメリット-
当クリニックでは、多くの症例に対応可能なTAPP法を標準術式としています。
わずか5mmの創で手術が可能で、両側の確実な観察ができます。
また、解剖学的な視野が広く確保できるため、より安全で確実な手術が可能です。

術式選択:鼠径部切開法か腹腔鏡手術か
鼠径ヘルニアの手術で最も重要な事は、ヘルニア門にしっかりとメッシュを充てる事です。
メッシュの挿入方法ですが、鼠径部切開法か腹腔鏡手術、に大別できます。
鼠径部切開法に比べ、腹腔鏡手術は以下の4つのメリットがあるため、当院は腹腔鏡手術を第一選択としています。
1.両側を観察可能
術前のエコー検査で反対側にも鼠径ヘルニアが存在するかどうかを確認します。しかし、術前検査は完璧ではなく、見逃される反対側の鼠径ヘルニアは必ずあると考えます。
腹腔鏡手術は腹腔内から反対側の鼠径ヘルニアの有無を直接観察する事が可能です。
反対側にも鼠径ヘルニアがある場合、同時に手術する事が可能です。(両側手術と片側手術の手術費用は同じです。)
2.すべてのヘルニア門を覆える
鼠径部のヘルニアは外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、と3つあります。
鼠径部切開法ではそのうちの2つ、外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニアのヘルニア門をメッシュで覆う事が可能です。
それに対して、腹腔鏡手術は3つのヘルニア門すべてをメッシュで覆う事が可能です。
3.感染を起こしにくい
術後感染は創部の皮下脂肪に生じます。
腹腔鏡手術は創部が小さいため、感染のリスクが低いです。
また、創部感染を生じたとしてもメッシュまで距離があるため、メッシュ感染に至る事はありません。
4.術後の回復
腸蠕動回復までの時間、初回歩行までの時間、経口摂取再開までの時間が早いと言われています。

患者さまが知っておくべきポイント
- 腹腔鏡手術は4つの医学的メリットにより当院の第一選択となっています
- 両側観察により見逃しを防ぎ、同時手術で患者さまの負担を軽減します
- 感染リスクの低減と術後回復の早さが日帰り手術を可能にしています
鼠径ヘルニアの日帰り手術 ~麻酔の工夫~
鼠径ヘルニア日帰り手術における麻酔について解説します。
鼠径ヘルニアってどんな病気?
股関節の左右の足の付け根の部分が膨らむことが典型的な症状である鼠径ヘルニアは脱腸とも呼ばれます。
立ったり、お腹に力を入れたりすると鼠径部に膨らみが出て、横になると消失します。
放置すると徐々に大きくなるだけでなく、「嵌頓」という状態になる事があります。
この状態になってしまうと、腸閉塞と腸管虚血を起こし、腸が壊死してしまって腹膜炎に至り、時には命に危険がおよぶこともあります。
自然に治ることがなく、治療するには手術が必要です。
鼠径ヘルニアの手術は日帰りで出来る
従来の鼠経ヘルニアの手術は3泊4日の入院が必要でした。現在でも殆どの病院は入院手術しか行っていませんが、実は鼠径ヘルニアの手術は入院が不要なんです。
その理由は腹腔鏡手術により低侵襲治療の普及と、麻酔技術の向上によります。
現在、欧米では鼠径ヘルニア手術の多くが日帰りで行われています。
鼠径ヘルニア日帰り手術における麻酔
鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術を行うには、全身麻酔が必要になります。
腹腔鏡手術とは、腹腔にカメラを入れて観察し、人間の手の代わりに細い鉗子を用いて行う手術です。
このためには二酸化炭素を用いて腹腔を大きく膨らませる必要があり、お腹の筋肉に力が入ったままだとできないため、全身麻酔が必須になります。
日帰り手術における全身麻酔ですが、使用する薬剤の種類は通常の全身麻酔と変わりません。
違いは使用する麻酔薬の量です。
日帰り手術では、腹腔鏡手術により創が小さく痛みが少ないです。また筋膜ブロック麻酔や点滴の鎮痛薬も併用するため、投与する麻薬性鎮痛薬の量を最低限に抑えています。
これにより、術後の痛みが低減されるだけでなく、術後の吐き気も少なくなります。
日帰り手術に最適化された麻酔管理
- 使用する薬剤の種類は通常の全身麻酔と変わりません
- 腹腔鏡手術により創が小さく痛みが少ないため、投与する麻薬性鎮痛薬の量を最低限に抑制
- 筋膜ブロック麻酔や点滴の鎮痛薬も併用
- 術後の痛みが低減されるだけでなく、術後の吐き気も少なくなります
鼠径ヘルニア(脱腸)の手術方法を考える
~ヘルニア袋の処理方法に関する最新の研究から~
出典: Updates in Surgery 2024年論文
“Is the transection of the hernia sac during laparoscopic inguinal hernioplasty safe and feasible? An updated systematic review and meta-analysis”
はじめに
鼠径ヘルニア(脱腸)の腹腔鏡手術において、ヘルニア袋(おなかの内容物が飛び出してくる際の袋状の部分)の処理方法には、大きく2つの方法があります。今回は、世界中の研究(2,995名の患者さんのデータ)をまとめた最新の報告についてご紹介します。
2つの手術方法の違い
手術方法 | 特徴 | メリット・デメリット |
---|---|---|
1. 切除する方法(TS法) | ・ヘルニア袋を途中で切って処理 ・比較的簡単な手術方法 | ・術後の水がたまりやすい |
2. 完全に戻す方法(RS法) | ・ヘルニア袋を丁寧に剥がして元の位置に戻す ・より繊細な手術操作が必要 | ・術後の水たまりが少ない |
研究でわかったこと
- TS法の特徴:
- 水がたまる確率が少し高い(15.2%)
- 日常生活に戻るまでの時間が少し長い
- RS法の特徴:
- 水がたまる確率が低い(11.3%)
- 日常生活への復帰が早い
- 両方とも同じだった項目:
- 手術時間
- 痛みの程度
- 合併症の頻度
- 再発率
それぞれの方法が向いている患者さん
RS法(完全に戻す方法)が望ましい方:
- 若い方
- 初めてのヘルニア
- ヘルニアが小さい方
TS法(切除する方法)が考慮される方:
- 高齢の方
- 陰のうまで大きく下がっている方
- 過去に嵌頓(はまりこみ)の経験がある方

患者さまが知っておくべきポイント
- 2,995名の患者データに基づく最新研究により手術方法を選択しています
- 患者さまの年齢、ヘルニアの状態により最適な方法を判断します
- どちらの方法も再発率や合併症頻度に差はありません
手術後の回復と生活への復帰
手術直後から歩行が可能で、多くの患者さまが術後1-2時間程度で帰宅されています。
痛みの程度には個人差がありますが、適切な疼痛管理を行うことで快適な術後生活を送ることができます。
当院では通常の生活へ復帰に関して制限を設けていません。
患者様の生活をできる限り邪魔しないように治療を行う手段としての日帰り手術です。
私達に求められていることは、安全性を保ちながらも時間負担が少ない手術だと存じております。
活動内容 | 復帰時期 | 注意点 |
---|---|---|
デスクワーク | 術後1日目から | 痛み止め使用で対応可能 |
シャワー浴 | 手術当日から | 防水テープで創部保護 |
飲酒再開 | 術後3日目 | 痛み止めとの併用注意 |
入浴 | 術後3日目から | 創部を清潔に保つ |
喫煙再開 | 術後7日目 | 創傷治癒への影響考慮 |
運動・筋力トレーニング | 術後10日目以降 | 段階的に負荷を上げる |
手術の費用と保険適用について
当クリニックでの手術は、すべて健康保険の適用対象となります。
日帰り手術のため、入院費用が不要で、経済的な負担も軽減されます。
多くの方が高額療養費制度の恩恵を受けて自己負担額が軽減されます。
→鼠径ヘルニア手術費用と高額療養費制度の詳細でも詳しく解説しています。
年齢・所得区分 | 通常の自己負担 | 高額療養費適用後 |
---|---|---|
75歳以上(一般) | 約3.9万円 | 約1.8万円 |
70-74歳(一般) | 約3.9万円 | 約1.8万円 |
一般(標準報酬28-50万) | 約13万円 | 約8.7万円 |
住民税非課税者 | 約3.9万円 | 約0.8万円 |
当院からのメッセージ:専門医による最適な手術方法の選択
大阪うめだ鼠径ヘルニアMIDSクリニックでは、患者さん一人一人の状態に合わせて最適な手術方法を選択しています。豊富な経験を持つ専門医が、年齢や活動性、ヘルニアの種類やサイズなどを総合的に判断し、それぞれの症例に応じて柔軟に対応させていただいております。
手術方法の選択は患者様の様々な要因を総合的に判断して決定します。
当クリニックでは、豊富な経験を持つ専門医が、丁寧な説明とともに最適な治療方法をご提案いたします。
ご不安な点やご質問がございましたら、当院までお気軽にご相談ください。
最新の治療法と豊富な手術実績で、皆様の回復をサポートいたします。

患者さまが知っておくべきポイント
- 当院は身体への侵襲が少ない腹腔鏡を用いた日帰り手術を専門としています
- 豊富な経験を持つ専門医が丁寧な説明とともに最適な治療方法をご提案
- 最新の治療法と豊富な手術実績で皆様の回復をサポートいたします
鼠径ヘルニアかな?と思う方はぜひ当院にご相談ください
当院は鼠径ヘルニアの日帰り手術を専門とするクリニックです。
鼠径部(足の付け根)のしこりは様々な病気が考えられ、当院では鼠径ヘルニア以外の疾患についても責任をもって鑑別診断や治療を行います。
気になる症状がある方は、早めの受診をお勧めします。当院では、日帰り腹腔鏡手術を専門としており、必要に応じて両方の手術方法に対応可能です。丁寧な説明と、安全な手術を心がけておりますので、お気軽にご相談ください。
平日は21時まで診療し、土日祝日も診療しております。
電話やLINEで24時間相談を受け付けております。
いつでもお気軽にご相談ください。