鼠径ヘルニアは自然治癒できる?自分で治す方法と手術の必要性

鼠径ヘルニア(脱腸)と診断されて「自然に治らないの?」「自分で治す方法はないの?」と疑問に思われる方は多くいらっしゃいます。
結論から申し上げると、鼠径ヘルニアは自分で治すのは不可能で、自然に治ることもありません。市販のサポーターや放置による様子見では根本的な解決にはならず、むしろ命に関わる「嵌頓」という状態になるリスクがあります。
「鼠径ヘルニア診断されたけれども、まだ手術しなくていいと言われた。」どうしたらいいのかわからないという方のために、なぜ手術でしか治せないのか、放置するとどのような危険があるのかを専門医が詳しく解説します。
この記事で分かること
- 鼠径ヘルニア(脱腸)の基本的なメカニズム
- なぜ自然治癒や自分で治すことが不可能なのか
- 放置することで起こる「嵌頓」の危険性
- サポーターの効果と限界
- 手術が唯一の根本治療である理由
- 専門医からのアドバイス
目次
鼠径ヘルニア(脱腸)とは?
基本的なメカニズムを理解しよう
鼠径ヘルニア(脱腸)とは、足の付け根(鼠径部)で筋膜が薄くなっている部分から、おなかの中の臓器(内臓脂肪や腸)が、皮膚の下まで飛び出してしまった状態です。
体は筋肉という壁で覆われていますが、これは何枚かの筋肉で構築されています。鼠径部では筋肉に隙間が空いている箇所があります。その隙間から腹膜が袋状に皮膚の下まで脱出するのが鼠径ヘルニアです。袋の中に腸管が出ると患者様は「鼠径部が膨れた」と感じるわけです。
典型的な症状は、立ったり、お腹に力を入れたりすると鼠径部に膨らみが出て、横になると消失します。

鼠径ヘルニアが起こる流れ
段階 | 状態 | 症状 |
---|---|---|
1 | 腹圧の上昇 | 咳、くしゃみ、重いものを持つなどで腹圧が高まる |
2 | 弱い部分への圧迫 | 鼠径部の弱い部分に強い圧力がかかる |
3 | 臓器の脱出 | 主に小腸などがその部分から体外に押し出される |
4 | ふくらみの出現 | 外から見ると足の付け根にふくらみが現れる |
鼠径ヘルニアは自分で治せる?自然治癒の可能性
結論:自分で治すのは不可能
結論から言うと鼠径ヘルニアは自分で治すのは不可能です。鼠径ヘルニアという診断であれば自然に治ると言うこともありません。
筋膜の構造と自然治癒が不可能な理由
前述のように、足の付け根、股関節付近の腹壁に筋肉が無く筋膜のみで構成されている部分があります。この部分が膨らんで腹膜ごと腹筋のレベルより体の外に飛び出ている事が鼠径ヘルニアと言う病気の本態です。
よく『筋肉の隙間が出来ている』と説明していますが、イメージとしては正解です。筋肉は鍛えることで太く逞しくなります。一方筋膜は鍛えて強くすると言うことは不可能です。ですので一度出来た鼠径ヘルニアを治すには、手術をして人工的に筋膜を張り直すしかありません。この筋膜を貼り直す作業がよく我々が説明しているメッシュを貼ると言う工程になります。
自然治癒しない根本的な理由
- 筋膜は鍛えて強くできない組織構造
- 筋肉が無く筋膜のみで構成されている部分の存在
- 加齢とともに組織はさらに脆弱化が進行
- 日常の腹圧により症状は徐々に悪化
サポーターの効果と限界
市販されている鼠径ヘルニア用サポーターは、一時的に症状を軽減する効果はありますが、根本的な治療にはなりません。サポーターは外部から圧迫することで、腸管の脱出を物理的に抑える働きをしますが、筋膜の欠損部分を修復するわけではありません。
サポーターの効果 | 限界 |
---|---|
一時的な症状軽減 | 根本治療にはならない |
日常生活での不快感軽減 | 筋膜の欠損は修復されない |
応急的な対処法 | 長期使用による皮膚トラブル |
手術までの症状緩和 | 嵌頓のリスクは変わらない |

患者様が知っておくべきポイント
- 鼠径ヘルニアは自然治癒せず、手術でのみ根治可能
- 筋膜は鍛えて強くできないため、メッシュによる補強が必要
- サポーターは一時的な症状緩和のみで根本治療ではない
- 放置すると症状は徐々に進行し、手術の難易度も上がる
鼠径ヘルニアを放置するリスクと嵌頓の危険性
嵌頓の症状と緊急性
鼠径ヘルニアは「嵌頓」という状態に突然なることがあります。手術しないで長年放置している方は、嵌頓に近い状態を経験したことがあると思います。
普段は横になったり手で押さえたりすれば直ぐに膨らみが消えるのに、いくら押しても膨らみが凹まず、徐々に固くなるのが嵌頓のサインです。
嵌頓すると、数時間で腸管虚血と腸閉塞が進行し、腸穿孔して腹膜炎となってしまいます。程度に差はあるかもしれませんが、小さな鼠径ヘルニアでも嵌頓する(腸などが嵌りこんで抜けなくなる)可能性はあります。

用手的還納と緊急手術について
嵌頓したら、出来るだけ速やかに医療機関を受診してください。ご自分では戻せなくても、熟練した外科医であれば用手的に還納することに慣れています。嵌頓してからあまり時間が経過してなければ、用手的に還納して後日に手術を行います。
しかし、医師でも用手的に還納できなかった場合、緊急手術を行う必要があります。
段階 | 症状の特徴 | 対処法 | 危険度 |
---|---|---|---|
初期段階 | 立位でふくらみ、仰臥位で消失 | 専門医受診・検査 | 低 |
進行段階 | ふくらみが常時確認できる | 手術検討が必要 | 中 |
嵌頓状態 | 押しても戻らない、激痛 | 緊急受診必須 | 高 |
嵌頓による腸閉塞・壊死の危険性
消化管は口から肛門まで一続きの管であり、この「腸管」が筋肉の隙間から脱出したまま締め付けられると腸閉塞を起こし、同時に血液供給が遮断されます。血流が止まってから8時間が経過すると腸組織の壊死が始まり、腸壁に孔が生じます(腸管穿孔)。腸内容物(糞便)が腹腔内に漏出すると重篤な腹膜炎を発症し、急速に敗血症へと進行してしまいます。
このような危機的状況では腹部を大きく開腹する救急手術が避けられず、術後には集中治療室での長期管理を要するケースも少なくありません。さらに、治療開始が遅延した場合には生命を救えない可能性もあります。
嵌頓の発生を阻止する手段は存在せず、その発症時期も全く予想がつきません。したがって、鼠径ヘルニアと診断されたら可能な限り早期の外科的治療を推奨いたします。
専門医からのアドバイス – 適切なタイミングでの治療を
ただちに嵌頓するという事は稀だと思います。しかし可能性がないわけでは無いのです。
鼠径ヘルニアは、思い立った時に治療してしまった方が良いと説明させていただいている理由になります。鼠径ヘルニアは治療したいと思った時が、手術のタイミングです。
鼠径部にしこりと痛みを感じたら
鼠径部(足の付け根)のしこりは様々な病気が考えられます。当院では鼠径ヘルニア以外の疾患についても責任をもって鑑別診断や治療を行います。
脱出した腸管をご自身で戻せない方も受診いただければ、私たちで用手的に還納できます。
平日は21時まで診療し、土日祝日も手術を行っております。電話やLINEで24時間相談を受け付けております。いつでもお気軽にご相談ください。
早期治療をお勧めする理由
- 嵌頓のリスクを回避できる
- 症状が軽いうちの手術の方が、術後の回復も早い
- 日帰り手術で治療が完了する
- 進行してからでは手術の難易度が上がる可能性
よくある質問
Q: 筋トレやストレッチで治せませんか?
A: 残念ながら筋トレやストレッチでは治せません。筋膜は筋肉と異なり、鍛えて強くすることができない組織です。運動により症状が悪化する可能性もあるため、診断がついたら専門医にご相談ください。
Q: サポーターをずっと使っていても大丈夫ですか?
A: サポーターは一時的な症状緩和には有効ですが、根本治療ではありません。長期使用による皮膚トラブルの可能性もあり、嵌頓のリスクも変わりません。手術までの応急的な使用に留めることをお勧めします。
Q: 手術以外に治療法はありませんか?
A: 現在、鼠径ヘルニアの根治療法は手術のみです。腹腔鏡手術により、傷が小さく回復の早い治療が可能になっています。当院では日帰り手術を基本としており、多くの患者様が翌日から通常の生活に戻られています。
まとめ
鼠径ヘルニアは自然治癒することなく、自分で治すことも不可能な疾患です。筋膜の構造上、一度発症すると手術による根治療法以外に治療法はありません。
放置すると嵌頓という生命に関わる状態になるリスクがあるため、症状を認めたら早期の専門医への相談をお勧めします。現在では日帰り手術により、身体への負担を最小限に抑えた治療が可能です。
鼠径ヘルニアでお悩みの方は、一人で悩まず専門医にご相談ください。適切な診断と治療により、安心して日常生活を送ることができます。