足の付け根やVラインのしこり・膨らみは脱腸?鼠径ヘルニアの可能性を専門医が解説

足の付け根に違和感やしこりを感じたら、まずは鼠径ヘルニア(脱腸)について詳しく知ることから始めましょう。
足の付け根やVラインにしこりやふくらみを感じたら、それは鼠径ヘルニア(脱腸)かもしれません。多くの方が「これって病気?」と不安に感じる症状について、専門医が詳しく解説します。
この記事で分かること
- 足の付け根のしこり・膨らみで考えられる病気の種類
- 鼠径ヘルニア(脱腸)の見分け方とセルフチェック方法
- 男女別の症状の特徴と好発年齢
- 放置することの危険性と緊急受診が必要な症状
- 適切な診療科と診断・治療方法
目次
足の付け根のしこり・膨らみで考えられる病気
足の付け根(太ももの内側の付け根部分)は、医学的に鼠径部と呼ばれる場所です。ここにしこりや膨らみを感じた場合、以下の4つの病気が主に考えられます。
1. 鼠径ヘルニア(脱腸)

最も可能性が高い病気です。本来おなかの中にあるべき臓器が体外に脱出した状態で、腸が出てくることが多いため「脱腸」とも呼ばれます。
主な特徴:
- 立った時・力んだ時に膨らみが目立つ
- 横になると消失することが多い
- 手で押すとやわらかく、押し込むと引っ込む
- 男女比は8:1と男性に多い
2. リンパ節腫大
足の付け根はリンパ節が多く集まる場所です。リンパ節の形がはっきりしていて、押すと左右に動き、また圧痛があれば、リンパ節腫大の可能性が高いです。
見分けるポイント:
- 痛みを伴う場合: 感染症によるリンパ節炎の可能性
- 無痛性の場合: がんの可能性も考慮が必要
3. 軟部腫瘍・膿瘍
脂肪腫や皮下の粉瘤が足の付け根にできることもよくあります。場合によっては切除した方が良いこともあります。
4. ヌック管水腫(女性特有)
若い女性に好発する病気です。水腫と呼ばれる水の袋ができた状態で、足の付け根の膨らみとして感じます。時に子宮内膜症と関連することがあります。
鼠径ヘルニア(脱腸)の初期症状と見分け方
足の付け根にしこりが出来た場合、まずは鼠径ヘルニアを疑いましょう。鼠径ヘルニアとは、足の付け根で筋膜が薄くなっている部分から、おなかの中の臓器(内臓脂肪や腸)が皮膚の下まで飛び出してしまった状態です。
立った時・力んだ時に膨らむ特徴
鼠径ヘルニアの典型的な症状として、立ったり、おなかに力を入れたりすると足の付け根に膨らみが出て、横になると消失します。
膨らみの特徴的なパターン:
- 手で押した時:やわらかく、押し込むと引っ込む
- 腹圧をかけた時:咳、くしゃみ、重いものを持つ時に膨らみが目立つ
- 横になった時:膨らみが小さくなったり、完全に消失する
自宅でできる簡単セルフチェック
以下の症状があれば、鼠径ヘルニアの可能性が高いです:
- 軽い引っ張られる感覚: 歩行時や立ち上がる時の違和感
- 鈍痛: 激しい痛みではなく、重だるい感覚
- 異物感: 「何かがある」という漠然とした不快感
- 疲労感: 患部周辺の疲れやすさ
痛みの有無と症状の進行
鼠径ヘルニアは、痛みなどがなく、違和感しか感じないこともあります。しかし、鼠径管が拡張される過程や、膨らみが大きくなって痛みを感じることがあります。
痛みが生じる理由:
- 筋膜が割ける痛み: 鼠径管拡張時の組織損傷
- 血流低下による痛み: 脱出した腸管が締め付けられることによる
女性のVライン・足の付け根の症状と特徴
女性の鼠径ヘルニアは全体の約15%を占めますが、男性とは異なる特徴があります。
女性に多いヌック管水腫の可能性
20代〜40代の女性に好発し、鼠径ヘルニアと鑑別が必要な疾患です。Nuck管とは、胎生期に子宮円索の形成に伴って鼠径管内に入り込んだ腹膜の一部が遺残したもので、この内部に液が貯留した病態をNuck管水腫と言います。
妊娠・出産後に気づくケース
女性の場合、妊娠・出産による腹圧の変化で症状が顕在化することがあります。特に出産回数の多い高齢女性は、大腿ヘルニアの発症リスクが高くなることが知られています。
女性特有の症状パターン
症状の特徴 | 鼠径ヘルニア | Nuck管水腫 |
---|---|---|
好発年齢 | 幅広い年齢層 | 20-40代 |
膨らみの変化 | 体位で変化する | あまり変化しない |
痛みの有無 | 軽微な場合が多い | 痛みを伴うことがある |
緊急性 | 嵌頓リスクあり | 比較的低い |
男性の足の付け根の膨らみ・原因と対処法
男性の鼠径ヘルニア発症率は3人に1人と非常に高く、年齢とともにリスクが増加します。
40代以降に急増する男性の発症
統計的には、男性の3人に1人、女性の20人に1人が一生のうちに鼠径ヘルニアに罹患すると言われており、決して珍しい病気ではありません。
年齢別の発症メカニズム:
年齢層 | 発症原因 | 特徴 | 対策 |
---|---|---|---|
小児(0-15歳) | 生まれつきの穴(腹膜鞘状突起の閉鎖不全) | 先天性・男児に多い | 早期手術が推奨 |
成人(16-49歳) | 体質・外的要因の組み合わせ | 重労働・スポーツが誘因 | 予防・早期発見が重要 |
高齢者(50歳以上) | 加齢による組織の脆弱化 | 最も頻度が高い | 定期的な自己チェック |
重労働・慢性咳嗽との関連
以下の要因が発症リスクを高めます:
- 遺伝的要因: 家族歴がある場合、リスクが高まります
- 年齢: 年齢とともに筋肉が弱くなり、ヘルニアのリスクが増加します
- 性別: 男性に多く見られます
- 腹圧の上昇: 重い物を持ち上げる、激しい咳や便秘などが原因となります
外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニア
男性に多い外鼠径ヘルニアは最も頻度の高い鼠径部ヘルニアで、全体の約70-80%を占めています。一方、内鼠径ヘルニアは中年以降の男性に多く、50-70歳代での発症が最も多く見られます。
しこり・膨らみを感じたら何科を受診?
外科・消化器外科が第一選択
結論として外科もしくは消化器外科が、最も適切な診療科です。鼠径ヘルニアの手術は、外科領域で最もメジャーな手術の一つであり、全国で月間11,000件の手術が行われています。
泌尿器科は、陰嚢の腫れが主症状の場合や排尿障害を伴う場合に適していますが、基本的には、外科での受診をお勧めします。
初診で伝えるべき症状のポイント
診察時には以下の点を詳細にお聞きします:
- 「どのような時に」出っ張るのか
- 「どうしたら」戻っていくのか
視診や触診のみでは鼠径ヘルニアの類似疾患との鑑別が困難な時もありますので、当院では腹部超音波検査も併用しております。
初診の流れ:
- 問診・視診・触診による基本診断
- 必要に応じて超音波検査
- 日帰り手術の適応検査
- 患者様のご都合に合わせた手術日程の調整
放置の危険性と緊急受診が必要な症状
嵌頓(緊急事態)の症状とは
鼠径ヘルニア(脱腸)は初期段階では腸がおなかから出たり入ったりを繰り返しますが、放置を続けると必ず腸管が体外に出たまま戻らない「嵌頓(かんとん)」状態に陥ります。
嵌頓の危険な進行:
- 腸管の締め付け: 筋肉の隙間から脱出した腸管が戻らなくなる
- 血流遮断: 8時間で腸組織の壊死が始まる
- 腸管穿孔: 腸壁に穴が生じる
- 腹膜炎: 腸内容物が腹腔内に漏出
- 敗血症: 急速に生命危険状態へ
即座に救急外来を受診すべきケース
以下の症状があれば、出来る限り速やかに医療機関を受診してください:
- 普段は押せば引っ込む膨らみが、押しても戻らない
- 膨らみが徐々に固くなる
- 激しい腹痛を伴う
- 嘔吐・腹部膨満感がある
嵌頓を予防する方法はなく、また嵌頓はいつ起こるかも予測できません。そのため、鼠径ヘルニアの症状を認めたらなるべく早めの手術をお勧めしております。
嵌頓による緊急手術のリスク:
- おなかを大きく開腹する緊急手術が必要
- 術後は長期のICU管理が必要
- 対応が遅れると、最悪の場合は救命できないこともあります
段階 | 症状の特徴 | 対処法 | 危険度 |
---|---|---|---|
初期段階 | 立位で膨らみ、仰臥位で消失 | 専門医受診・検査 | 低 |
進行段階 | 膨らみが常時確認できる | 手術検討が必要 | 中 |
嵌頓状態 | 押しても戻らない、激痛 | 緊急受診必須 | 高 |
鼠径ヘルニアと間違えやすい病気との違い
鼠径部の膨らみや違和感があっても、すべてが鼠径ヘルニアとは限りません。適切な診断と治療のため、類似する疾患との違いを理解することが重要です。
陰嚢水腫・精索水腫との違い
陰嚢水腫は精巣の周囲にリンパ液が貯留し、陰嚢が膨らんだ状態になる病気です。生まれたばかりの男児には比較的高頻度に認められますが、成人の陰嚢水腫については原因がはっきり分かっていません。
外傷や感染などが要因と考えられ、自然治癒することはありません。一回の穿刺で水を抜くことで治ることもありますが、根治するためには手術が必要となることもあります。
鼠径ヘルニアとの主な違いは、陰嚢水腫は陰嚢内のみの膨らみで、鼠径ヘルニアは鼠径部から陰嚢にかけての膨らみという点です。
Nuck管水腫は女性に多い?
20代〜40代の女性に好発し、鼠径ヘルニアと鑑別が必要な疾患です。Nuck管とは、胎生期に子宮円索の形成に伴って鼠径管内に入り込んだ腹膜の一部が遺残したもので、この内部に液が貯留した病態をNuck管水腫と言います。
鼠径ヘルニアと鑑別が必要なので、超音波やCTなどの画像診断が必要になります。痛みが伴うこともあるため、治療を希望される方が多いです。針で刺して内容液を吸引したり、手術によってNuck管を切除することで根治

患者さまが知っておくべきポイント
- 足の付け根のしこり・膨らみの原因として鼠径ヘルニアが最も多い
- 立位での膨らみ、仰臥位での消失が典型的な症状
- 男性は3人に1人、女性は20人に1人が一生のうちに発症
- 嵌頓は予測不可能で生命に関わる重篤な合併症
- 早期発見・早期治療により安全で負担の少ない手術が可能
まとめ:早期発見・早期治療の重要性
足の付け根やVラインのしこり・膨らみを感じた際は、鼠径ヘルニア(脱腸)の可能性を念頭に、速やかな専門医受診が重要です。
覚えておくべき重要なポイント:
当院では身体への侵襲が少ない腹腔鏡を用いた日帰り手術を専門的に行っております。足の付け根の違和感や膨らみでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
大阪うめだ鼠径ヘルニアMIDSクリニックでは、鼠径ヘルニアに特化した日帰り手術専門クリニックとして、診断からアフターケアまで一貫して対応いたします。完全予約制でお待たせすることなく、LINE相談にも24時間対応しております。