鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術とは?内視鏡による治療の流れと回復を解説

鼠径ヘルニア(脱腸)でお悩みの方にとって、手術方法の選択は重要な決断です。当院では「身体に優しい低侵襲手術」である腹腔鏡手術を第一選択として、日帰り手術を専門に行っています。この記事では、腹腔鏡手術の基本概念から具体的な治療の流れ、費用、当院の特徴まで、消化器外科専門医・腹腔鏡外科技術認定医が詳しく解説します。
この記事で分かること
- 腹腔鏡手術の基本概念と内視鏡手術との関係性
- 腹腔鏡手術と従来手術の違い・比較
- 手術方法の種類(TAPP法・TEP法・mTAPP法)
- 腹腔鏡手術の治療の流れ(術前検査から手術当日まで)
- 手術費用・入院期間・保険適用について
- 当院での腹腔鏡手術の特徴と安全性への取り組み
目次
鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術とは
腹腔鏡手術の基本概念
腹腔鏡手術は、カメラを腹部に挿入し、モニターに腹腔内の様子を映し出し、映像を見ながら手術をする方法です。通常の開腹手術と異なり、5〜10mmのとても小さな傷を3〜4箇所開けて行います。
この手術は1990年代から日本でも普及し始めました。1990年に山川達郎医師による胆嚢摘出手術が日本初の腹腔鏡手術として行われ、2006年夏に慶應大学で王貞治監督の胃全摘手術を宇山一朗医師が行ったことをきっかけに、一気に腹腔鏡による低侵襲手術の知名度が上がりました。
内視鏡手術との関係性
腹腔鏡手術は内視鏡手術の一種です。内視鏡手術は体内にカメラを挿入して行う手術の総称で、その中で腹腔内(お腹の中)で行われる手術を特に腹腔鏡手術と呼びます。鼠径ヘルニアの治療においては、「腹腔鏡手術」が正式な医学用語として確立されています。

患者さまが知っておくべきポイント
腹腔鏡手術は「身体に優しい侵襲の低い手術」として、従来の開腹手術と比較して多くのメリットがあります。傷が小さく、術後の痛みが少なく、回復が早いという特徴があります。
腹腔鏡手術と従来手術の違い・比較
手術方法の違い
従来の鼠径ヘルニアの治療は鼠径部切開法(Lichtenstein法)が一般的でした。これは鼠径部を7cm程度切開し、鼠径ヘルニアの出口となる内鼠径輪をメッシュで塞ぐ方法です。
一方、腹腔鏡手術では腹腔内からアプローチし、より小さな傷でメッシュを挿入します。当院では最新の研究で効果が実証された「3つの5mmトロカーを使用するmTAPP法」を採用しています。
メリット・デメリット比較
項目 | 腹腔鏡手術 | 従来の切開法 |
---|---|---|
傷の大きさ | 5-10mm × 3-4か所 | 約7cm × 1か所 |
術後の痛み | 少ない | 比較的多い |
入院期間 | 日帰り〜1日 | 1-3日 |
感染リスク | 低い | やや高い |
両側の観察 | 可能 | 不可 |
手術時間 | 約49分 | やや短い |
腹腔鏡手術の主なメリット:
- 痛みが少ない:腹壁の傷が小さいため、術後の痛みは段違いに少なくなります
- 術後の癒着が少ない:腹腔内臓器を手で直接触ることがないため、術後癒着による腸閉塞のリスクがありません
- よく見える:カメラの5cm先にある臓器を約4倍に拡大してモニターに映し出すため、精密な手術が可能です
- 早期回復:腸蠕動回復、初回歩行、経口摂取再開までの時間が早くなります
適応症例の違い
腹腔鏡手術は以下のような方に特に適しています:
- 両側の鼠径ヘルニアがある方
- 再発リスクを最小限にしたい方
- 早期の社会復帰を希望する方
- 術後の痛みを最小限にしたい方
- 手術既往がある方(当院では安全に対応可能)
ただし、全身麻酔に耐えられない方や重篤な心疾患をお持ちの方には慎重な検討が必要です。
鼠径ヘルニアの手術方法の種類
腹腔鏡手術(TAPP法・TEP法)
TAPP法(Trans-Abdominal Pre-Peritoneal repair)
腹腔内からアプローチし、腹膜を切開してメッシュを留置する方法です。当院で主に採用している方法で、全てのヘルニア門を確実に覆うことができます。
TEP法(Totally Extra-peritoneal repair)
完全に腹膜外からアプローチする方法で、腹腔内に入らずに手術を行います。
当院では最新の研究で効果が実証された「3つの5mmトロカーを使用するmTAPP法」を採用しています。この方法により:
- 術後6時間の痛みが従来法より有意に軽減
- 入院時間が約12時間に短縮
- 日帰り手術実施率が71.7%に向上
従来の開腹手術(Lichtenstein法)
鼠径部を切開してメッシュを留置する従来法です。手術時間は短いものの、傷が大きく術後の痛みが比較的強いという特徴があります。
メッシュ使用の有無による分類
現在の鼠径ヘルニア手術では、再発防止のためメッシュ(人工補強材)の使用が標準的です。メッシュを使用することで再発率を1%以下に抑えることができます。

患者さまが知っておくべきポイント
当院では最新の研究結果を基にした手術方法を採用しており、患者様の負担を最小限に抑えながら、確実な治療効果を提供しています。手術方法については、患者様の状態に応じて最適な方法を選択いたします。
腹腔鏡手術の治療の流れ
術前検査・診断
基本検査項目
- 血液検査(血算、生化学、感染症)
- 心電図検査
- 胸部レントゲン検査
- 腹部超音波検査
特殊検査
手術既往のある方には、診療看護師による超音波を用いた癒着マッピングを実施します。これにより臍部の癒着を90%の正診率で予測でき、安全な手術が可能になります。
手術前の準備
術前日
- 夜9時以降の絶食
- 通常内服薬の調整
当日朝
- 朝食絶食
- 術前シャワー
- 手術着への更衣
手術当日の流れ
手術時間:約49分
- 全身麻酔導入
- トロカー挿入:5mm×3本の細いトロカーを挿入
- 腹腔内観察:カメラで腹腔内を詳細に観察
- 両側チェック:反対側のヘルニアも同時に確認
- メッシュ留置:3つのヘルニア門すべてをメッシュで覆う
- 腹膜縫合:腹膜を丁寧に縫合
- 創部閉鎖:小さな傷を縫合
当院のデータでは、術中に反対側の鼠径ヘルニアを認め、両側修復術を行った方は27.8%でした。
麻酔方法と安全性
全身麻酔の特徴
- 気管内挿管による確実な気道確保
- 筋弛緩により安全な手術操作が可能
- 術中の痛みや意識は完全にありません
安全管理
- 麻酔科専門医による管理
- 生体モニターによる continuous monitoring
- 緊急時対応体制の完備
腹腔鏡手術の費用・入院期間
手術費用の詳細
保険適用での費用(3割負担の場合)
項目 | 片側 | 両側 |
---|---|---|
手術費用 | 約90,000円 | 約90,000円※ |
麻酔費用 | 約15,000円 | 約15,000円 |
検査費用 | 約10,000円 | 約10,000円 |
合計 | 約115,000円 | 約115,000円 |
※両側手術と片側手術の費用は同じです
保険適用について
鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術は健康保険の適用となります。また、以下の制度も利用可能です:
- 高額療養費制度:月額上限を超えた分は還付
- 医療費控除:年間10万円を超えた医療費は税控除対象
- 生命保険の手術給付金:多くの保険で給付対象
入院期間と日帰り手術
日帰り手術の流れ
- 朝9時頃入院
- 午前中に手術
- 夕方6時頃退院
短期入院の場合
- 1泊2日での入院も選択可能
- 遠方の方や不安な方におすすめ
当院では開院以来100件以上の腹腔鏡手術を実施していますが、手術当日の夜に食事が摂れなかった方は一人もいません。
当院での腹腔鏡手術の特徴
専門医による執刀
医師の資格
- 消化器外科専門医
- 腹腔鏡外科技術認定医
- 日本外科学会専門医
豊富な実績
- 年間100件以上の鼠径ヘルニア手術
- 腹腔鏡手術成功率99%以上
- 重篤な合併症発生率0%
最新設備と技術
導入設備
- 4K腹腔鏡システム
- 最新の電気メス装置
- 高周波シーリングデバイス
技術的特徴
- mTAPP法による低侵襲手術
- 癒着マッピングによる安全確保
- 稀なヘルニアも見逃さない診断力
安全性への取り組み
術前準備
- 詳細な術前検査
- 既往歴の詳細な聴取
- 癒着リスクの事前評価
術中管理
- 麻酔科専門医による管理
- 生体モニターによる継続監視
- チーム医療による安全確認
術後ケア
- 24時間緊急対応体制
- LINE・電話での相談受付
- 定期的な術後フォロー

患者さまが知っておくべきポイント
当院では最新の研究結果に基づいた手術方法を採用し、患者様の安全と早期回復を最優先に考えています。手術に関するご不安や疑問がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。
まとめ
鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術は、従来の手術方法と比較して多くの利点があります:
- 痛みが少なく早期回復が可能
- 傷が小さく美容面でも優れる
- 両側の同時治療が可能
- 感染リスクが低い
- 日帰り手術で社会復帰が早い
最新の研究結果も腹腔鏡手術の優位性を支持しており、今後さらに普及が進むと予想されます。
当院では、大阪駅直結というアクセスの良さに加え、平日21時まで、土日祝日も診療を行っています。鼠径部の膨らみや違和感でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。経験豊富な専門医が、最新の知見に基づいた最適な治療法をご提案いたします。
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