胆嚢炎とは?症状と治療を専門医が徹底解説
「右上腹部の強い痛みと発熱が続いている」「健康診断で胆石を指摘されていたが、ある日突然激しい腹痛に襲われた」
そのような症状は、急性胆嚢炎のサインかもしれません。
そもそも胆嚢炎は、胆石症が引き起こす合併症です。放置すると、胆嚢の壊死・穿孔・腹膜炎・敗血症と急速に重症化することがあり、決して軽視できない病気です。一方で、慢性胆嚢炎として長くくすぶる経過をたどるケースもあり、症状の出方は実に多彩です。
典型的には、急性胆嚢炎は脂っこい食事の後に発症することが多く、夜間や明け方に救急外来を受診される方が目立ちます。「いつもの食べ過ぎだろう」と一晩我慢しているうちに、翌朝には高熱が出て歩けないほど悪化していた、というケースも少なくありません。
このページでは、胆嚢炎の種類、原因、症状、診断、治療、そして当院の治療方針までを、外来でよくご質問いただく順序に近い形でまとめました。胆石を指摘されたことのある方、ご家族に胆嚢炎で入院された方がいる方は、ぜひご一読ください。
この記事で分かること
- 胆嚢炎の種類(急性・慢性)と、それぞれの特徴
- 胆嚢炎を引き起こす「胆石」の機序と、胆石以外の原因
- 急性胆嚢炎の典型症状と、胆石発作・他の腹痛との見分け方
- 重症化リスクと、救急受診が必要なサイン
- TG18ガイドラインに沿った診断と、早期手術・PTGBDの治療選択
- 当院での対応方針と、連携医療機関との紹介体制
胆嚢炎とは

その名のとおり胆嚢に炎症が起こっている状態が胆嚢炎で、経過によって急性胆嚢炎と慢性胆嚢炎の2つに大きく分かれます。
急性胆嚢炎
数時間〜数日の経過で発症する強い炎症です。激しい右上腹部痛、発熱、血液検査での炎症反応上昇が特徴。多くは胆石が引き金となり、放置すれば短時間で重症化することもあります。
慢性胆嚢炎
軽度の炎症を繰り返すうちに、胆嚢壁が肥厚・線維化した状態。激しい症状を呈することは少なく、食後の不快感程度ですむことも多いですが、機能不全の胆嚢として徐々に問題を起こしていきます。長期的には胆嚢がんのリスク因子ともされており、無症状でも手術が検討されるケースがあります。
胆嚢炎の原因
原因として圧倒的に多いのは「胆石」です。急性胆嚢炎の約9割は胆石が原因(胆石性胆嚢炎)とされています。
胆石が胆嚢炎を引き起こす機序
発症メカニズムは、おおむね次のような段階を踏みます。
① 胆石が胆嚢の出口(胆嚢頸部や胆嚢管)に嵌頓する
② 胆嚢内の胆汁が排出できず、胆嚢内圧が上昇する
③ 胆嚢壁の血流が障害され、粘膜が傷害される
④ うっ滞した胆汁の中で細菌が増殖し、感染が成立する
⑤ 急性炎症が進行し、放置すれば壊死・穿孔へ

「お腹が冷えた」「食あたり」のような一過性のトラブルとは違って、胆嚢炎には解剖学的な閉塞と感染という明確な機序があります。原因となる胆石を取り除く(=胆嚢摘出する)ことが、根本的な治療になります。
胆石以外の原因
頻度は少ないものの、胆石以外で胆嚢炎を起こすこともあります。
- 無石性胆嚢炎:重症患者、長期絶食、心臓手術後、敗血症などで起こる。重症化しやすい
- 胆嚢腫瘍(ポリープ・胆嚢がん)による胆汁流出障害
- 胆嚢捻転(高齢女性に多い)
- ステロイド使用、化学療法、免疫抑制状態
- 寄生虫感染(日本では稀)
胆嚢炎になりやすい方
なりやすい方には、胆石症と同じく一定の傾向があります。
- 胆石症の既往がある方(特に大きな結石、多数の結石)
- 40代以降の女性
- 肥満傾向の方
- 糖尿病をお持ちの方(無症候性に進行し、気づいたときには重症化していることも)
- 急激なダイエットを行った方
- 妊娠中・妊娠後の女性
- ステロイドや免疫抑制薬を使用中の方
急性胆嚢炎の典型症状
症状には、「胆石発作」と区別できる次のような特徴があります。
- 右上腹部の持続性の強い痛み(6時間以上続くことが多い)
- 痛みが右肩や背中へ放散する
- 38度以上の発熱
- 吐き気、嘔吐
- 食欲低下、全身倦怠感
- Murphy徴候陽性(右肋骨下を圧迫しながら息を吸わせると、痛みで途中で息が止まる所見)
大きな違いは、痛みが「治まらない」点にあります。胆石発作は通常30分〜数時間で軽快しますが、急性胆嚢炎の痛みは持続し、徐々に強くなっていきます。また、発熱を伴うかどうかも、見極めの手がかりになります。

これら教科書的な所見に加えて、私が日頃から大事にしているのが、叩打痛です。経験上、胆嚢炎のある方は右わき腹に手のひらを当てて上から軽く叩くと、痛みを訴えられることが多いのです。ご自身でも試せる方法ですので、一度確かめていただき、疑わしい時はご相談ください。
慢性胆嚢炎の特徴
慢性胆嚢炎は、長期間にわたる軽度の炎症が胆嚢壁に変化を引き起こした状態です。
- 食後の右上腹部の鈍い不快感
- 脂っこい食事の後の膨満感、悪心
- 急性胆嚢炎を繰り返した既往
- 画像検査での胆嚢壁の肥厚、萎縮胆嚢
慢性胆嚢炎では、胆嚢の機能が低下しており、胆汁の濃縮・排出が円滑に行えなくなっています。「症状が軽いから大丈夫」と放置していると、急性胆嚢炎の再発や胆嚢がんのリスクが懸念されます。
胆嚢炎の診断
診断には、世界的に「東京ガイドライン(TG18)」の診断基準が用いられています。
【TG18 急性胆嚢炎の診断基準】
- A. 局所の臨床徴候:Murphy徴候、右上腹部の腫瘤・痛・圧痛
- B. 全身の炎症所見:発熱、CRP上昇、白血球上昇
- C. 急性胆嚢炎の特徴的な画像所見:胆嚢壁肥厚、胆嚢腫大、胆嚢周囲液体貯留、超音波Murphy徴候など
Aの1項目以上 + Bの1項目以上で「疑診」、これにCの画像所見が加われば「確診」となります。
当院では、以下の検査を組み合わせて診断します。
- 血液検査:炎症反応(CRP・白血球)、肝機能、膵酵素を評価
- 腹部エコー検査:胆嚢壁肥厚、胆嚢腫大、胆石の存在、超音波Murphy徴候を確認
- 腹部造影CT:胆嚢周囲の炎症の広がり、合併症の有無、他疾患の除外
- MRI/MRCP:総胆管結石の合併が疑われる場合
胆嚢炎の重症化リスク

適切な治療がされないと、急性胆嚢炎は急速に重症化する病気です。TG18では、重症度を以下の3段階に分類しています。
グレードI(軽症)
他の臓器障害がなく、胆嚢の局所炎症にとどまる状態で、多くは保存的治療と早期手術で対応できます。
グレードII(中等症)
次のいずれかを伴います。
- 白血球>18,000/μL
- 右上腹部に触知可能な腫瘤
- 罹患期間72時間以上
- 著明な局所炎症(壊疽性胆嚢炎、胆嚢周囲膿瘍、胆汁性腹膜炎、気腫性胆嚢炎など)
グレードIII(重症)
心血管系・神経系・呼吸器系・腎・肝・血液のいずれかの臓器障害を伴います。集中治療が必要となり、致死率も高い病態です。
起こり得る重症化の形
- 壊疽性胆嚢炎:胆嚢壁の血流が途絶え、組織が壊死する
- 胆嚢穿孔:壊死部分から穴が開き、胆汁が腹腔内に漏れて腹膜炎を起こす
- 気腫性胆嚢炎:ガス産生菌による感染。糖尿病患者に多く、致死率が高い
- 胆嚢周囲膿瘍:胆嚢周囲に膿が貯まる
- 肝膿瘍:炎症が肝臓に波及
- 敗血症:血流に細菌が侵入し、全身炎症反応症候群を起こす
- 多臓器不全:重症敗血症から複数臓器の機能が破綻
これらは命に関わる合併症であり、早期の診断と治療が予後を大きく左右します。なかでも気腫性胆嚢炎・壊疽性胆嚢炎は、発症から数時間〜十数時間で急激に進行することがあり、「翌朝に予約を取ろう」では間に合わないこともあります。発熱と強い腹痛が組み合わさる場合は、夜間・休日であってもためらわず救急受診をご検討ください。
こんなときは受診を
こうした症状がある場合は、ためらわず受診してください。
早めの受診を
- 右上腹部の強い痛みが数時間以上続いている
- 痛みとともに38度以上の発熱がある
- 強い吐き気、繰り返す嘔吐
- 黄疸(皮膚や白目が黄色く見える)
救急対応を
- 鎮痛薬を使っても収まらない激しい痛み
- 意識がもうろうとする
- 冷や汗、血圧低下、ショック症状
- 急性胆嚢炎の既往があり、再び同じような症状が出た
特に糖尿病、高齢、ステロイド服用中、免疫抑制状態の方は、症状が軽くても重症化しやすいため、早めの受診をお勧めします。
胆嚢炎の治療
内科的治療と外科的治療を組み合わせるのが、急性胆嚢炎の治療です。
初期治療
- 絶食・補液
- 静注抗菌薬投与(広域抗菌薬)
- 鎮痛・制吐
- 酸素投与、必要に応じて集中治療
外科的治療:早期腹腔鏡下胆嚢摘出術
発症早期(72時間以内)の腹腔鏡下胆嚢摘出術が、世界的な標準治療となっています。「早期手術」と呼ばれ、以下の利点があります。
- 入院期間の短縮
- 治療費の抑制
- 待機手術と比較して合併症のリスクは同等以上に良好
- 再発による緊急再入院のリスク回避
減圧処置(PTGBD)
減圧処置を優先するのは、次のような状況です。
- 重症胆嚢炎で全身状態が手術に耐えられない
- 高齢、高度の合併症で手術リスクが高い
- 発症から時間が経過し、強い炎症・癒着が予想される
PTGBD(経皮経肝胆嚢ドレナージ)では、体表から胆嚢に管を挿入し、胆汁・膿を排出します。状態が改善してから、後日待機的に胆嚢摘出術を行います。

当院での治療方針
当院では、急性胆嚢炎の方への対応を、重症度と全身状態に応じて分けています。
軽症〜中等症で手術可能な方
初診時に診断確定後、入院手術が可能な連携医療機関へ速やかにご紹介します。当院では、急性胆嚢炎の状態で日帰り手術を行うことはありません。安全性を最優先した判断としてご了承ください。
症状が落ち着いた方、慢性胆嚢炎の方
全身状態を評価したうえで、日帰り腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応をご相談します。急性胆嚢炎の治療後、6週間程度以上経過してからの待機手術となるのが一般的です。
重症胆嚢炎が疑われる方
直ちに高次医療機関への緊急紹介を手配します。救急車の手配が必要な場合は当院から要請します。
こうした連携体制によって、患者さんの状態に応じた最適な治療を提供しています。当院では幅広い医療機関と連携しておりますので、お近くの医療機関へご紹介させていただきます。
胆嚢炎と胆石症:再発予防の観点から
再発予防のためにも、急性胆嚢炎を起こした方には胆嚢摘出術が原則として推奨されます。胆嚢を残したまま胆石だけを取り除く治療法も理論上は存在します。もっとも、再発率が高いことが知られています。
特に、以下のような方には積極的に手術をお勧めしています。
- 一度でも急性胆嚢炎を起こした方
- 慢性胆嚢炎で胆嚢機能が低下している方
- 大きな結石(特に3cm以上)や陶器様胆嚢(壁の石灰化)を有する方
- 糖尿病など、再発時に重症化リスクの高い基礎疾患をお持ちの方
- 膵胆管合流異常を伴う方(胆嚢がんリスクが高い)
まとめ
ここまで見てきたとおり、胆嚢炎は胆石症に伴って起こりうる合併症の中でも、注意が必要なもののひとつ。軽症から重症まで幅広い経過をたどり、「いつもの胃もたれだろう」と様子を見ているうちに急速に重症化することもあります。特に高齢者、糖尿病、免疫抑制状態の方では、症状が一見軽くても重症化していることがあり、油断できません。
過去に胆石を指摘されたことのある方、慢性的な右上腹部の不快感がある方は、症状が悪化する前の早期受診をお勧めします。当院では、急性期は連携医療機関と協力しながら、回復期から待機手術までを一貫してサポートする体制を整えています。
気になる症状があれば、お早めにご相談ください。早期診断・適切な治療が、安心と健康への近道です。
よくあるご質問
抗菌薬や絶食で炎症は一時的に治まることが多いですが、原因となる胆石が残っている限り、再発のリスクは高いままです。世界的なガイドラインでも、原則として手術が推奨されています。実際、初回の急性胆嚢炎を保存的治療のみで乗り切った方の約2〜3割が、その後再発を経験すると報告されています。
軽症で早期手術ができた場合、術後数日〜1週間程度で社会復帰できる方が多いです。重症で減圧処置から段階的に治療した場合は、回復までに数週間を要します。
発作を繰り返したり、胆嚢機能が完全に廃絶したり、まれに胆嚢がんのリスクが高まったりします。症状が乏しくても、長期的に見れば手術が望ましいケースが多くあります。
入院手術が原則として必要となるのは、急性胆嚢炎の状態のときです。術後の管理や合併症リスクを考慮するためです。当院では、急性期は連携医療機関と協力して対応し、状態が落ち着いた後の手術や、慢性胆嚢炎の方の手術を日帰りで承っています。
年齢だけで手術の可否が決まるわけではありません。心肺機能、腎機能、生活の自立度などをあわせて評価し、ご本人とご家族で十分に話し合ったうえで判断します。むしろ、繰り返す胆嚢炎で何度も入院するほうが体力を消耗するため、適応があれば早めの手術をお勧めすることもあります。
最も確実な予防は、原因となる胆石への対処です。すでに胆石症と診断されている方は、症状の出方や合併症リスクに応じて、計画的な手術を検討することが「最大の予防」となります。あわせて、規則正しい食生活、適正体重の維持、脂肪分の摂りすぎを避けるといった生活習慣も鍵になります。
